落穂拾い
   ━━ 微積物理まとめ


力にはどんな種類があるか
ここまで、力 F の例として、重力、クーロン力、バネの相互座用、床からの垂直抗力などが出てきたが、本質的に、古典力学の範疇では力には重力と電磁気力の二種類しかない。バネの相互座用も、垂直抗力も、原子どうしの距離が変化することで、電磁気的な相互作用が発生した結果である。残念ながら、相互作用に参加する、全原子の変化を計算することは不可能なので、現象論的にバネの相互座用はバネの伸びに比例するとしたり、重力を受けている物体が床から浮かないことから垂直抗力を(ニュートンの法則を用いて)逆算したりして決めているに過ぎない。 それぞれの力の法則を記述しておこう。これも何故はない、実験、測定の結果、このような関係があると結論されたものである。 物体の属性には質量と電荷があり、それぞれの属性に応じて、対応する力が作用する。物体の形状や色など、姿形はその物体の重心の運動には関係しない。 質量 m の物体が、距離 r にある質量 M の物体から受ける重力は、F=-GMm
r2
r
r
質量 m, 電荷 q の物体が受ける電磁気力(ローレンツ力)は、その点における電場 E,磁場 B として、F=q(E+v×B)電場 E,磁場 B を決めるのは電磁気学(Maxwell の法則)。 ここでは説明しなかったが、遠心力、コリオリの力はどうだろうか?これらは慣性系で考える際には出てこない。メリーゴーランドに乗っている人が感じる、中心から遠ざかるような力と、壁からの抗力のつり合いは、メリーゴーランド上の非慣性系の観測者が感じるもので、メリーゴーランドの外の、慣性系からは、中心方向の運動方程式における加速度と力の関係に他ならない。ニュートンの法則を考える際の舞台についての前提は慣性系だったことを思い出そう。
古典力学の適用範囲:かなり広い
理論には適用範囲というものがある。範囲を超えたところでは成り立たないからと言って、その法則が間違っているとか、意味がないというわけではない。対象の問題に対して、要求される精度で正しい答えを与えてくれるなら、その理論は役に立つ。 また、適用範囲を知ることで、その外で成り立つ法則についての新しい理論、分野が誕生する。 古典力学の適用範囲と、新しく生まれた分野は、あまり小さくないこと。 >≃ .1 µm それ以下は量子力学あまり速くないこと。 c (光速) それ以上は特殊相対性理論あまり重くないこと。 要求の精度による 範囲外は一般相対性理論 「あまり重くないこと。」の適用範囲は具体的に決められなかった。確かにブラックホールとなるような大質量の星の周囲では古典力学は成り立たないが、後に示すように、測定可能な精度・要求される精度が高まってくると、地球規模の質量でも、一般相対性理論が必要となってくる事例も出てくる。 そのいづれにもアインシュタインが関わっているということが、本当に驚異的なことだと思う。 ニュートン力学は、300 年以上に渡り、建築から天体の運行まで、その適用範囲内で徹底して検証されてきた。太陽系の惑星である、天王星の運行を摂動論(三体問題以上は解析的に解けないので、近似法を用いる)から解析すると、どうも計算と実際の観測が合わない、この位置に未発見の惑星があるとすると、計算と合うという予測がなされ、その方向に望遠鏡を向けたところ、果たしてそこに海王星が発見されたのは 1846 年のことである。 このように、観察から理論が生まれ、実験を通して検証され、その理論が未知の現象を予言し、また実験が検証する・・・実験と理論が両輪となっている点こそ、古典力学が科学の典範といわれる所以である。 ニュートン力学の適用範囲外の現象として、太陽系の天体運動では水星の近日点移動、身近なところではGPSを挙げておこう。どちらも、観測される精度/要求される精度をニュートン力学は満たせず、一般相対性理論によって説明された。 さらに、古典力学の適用範囲の外で新しい理論を構築する際、0 次近似として、ニュートン力学が再現されるかどうかも、その理論が正しいかどうかのチェックに用いることができる。 量子力学ではプランク定数 h0 とすることで、特殊相対性理論では光速 c とすることで(ローレンツ変換がガリレイ変換と一致する)、一般相対性理論では計量をローレンツ計量からの摂動とすることで、それぞれニュートン力学が再現される。
微積物理:まとめ
いまや、微積物理 はじめに で示したチャートを、途中の議論に制限なく、より完全な形で示すことができる。言語バージョンと数式バージョンをそれぞれ書き出して、まとめとしよう。 数式を使うとよりシンプルで美しい。 このチャートを眺めていると、古典力学では運動方程式がその最上段に君臨し、そこから各保存則が導かれるように思える。事実、古典力学の範疇ではそのとおりである。 ところで、数学の十分条件、必要条件を覚えているだろうか? A B が満たされるとき、A B の十分条件、BA の必要条件で、包含関係は AB であった。 { 運動方程式 (F=- U) }{ エネルギー保存則 } ということは、{ 運動方程式 (F=- U) }{ エネルギー保存則 } ということだろうか? 先ほどのセクションでも述べたように、ニュートン力学にも適用範囲外というものがあり、驚くべきことに、保存則は適用範囲外の量子力学や特殊相対性理論でも成立する。さらには一般相対性理論でも成立するらしい(正直言って、ここは自分も理解できていません)。 自然界、この宇宙では運動方程式よりも一段上に運動量、角運動量、エネルギーの各保存則が位置しているようである。 それでも、古典力学における、運動方程式と各保存則の関係はなんとも美しいと思うのである。 微積物理のカテゴリはこれにて完結。 物理に興味を持っていただけたら幸いです。 このあと、カテゴリを解析力学に変更して、道は一つではないこと、保存則と時間・空間の対称性の不思議な関係について、お話する予定です。大学での内容となるので、受験生の方々はチラッと眺めてみるだけ、いつかのお楽しみにしてもらえればと思います。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 運動方程式から各保存則を導出するお話しは完結。完結はしたのですが、思っていたよりも読んでくださる方が多いので、感謝の意味も含めて、第二部を始めることにしました。 高校時代、自分がよく分かっていなかったこと、ちゃんと説明してほしかったと感じたことを Topics として、項目ごとにまとめました。各 Topics は独立した内容で、ここまでしてきた話だけが前提となっていますので、どこから読んでいただいても大丈夫です。

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