角運動量保存則
   ━━ r との外積をとってみる


回転を数式で表現すると
回転を数学の言葉で表現するにはどうしたらよいだろうか? 簡単のため、原点のまわりをある一平面内で回転運動する点の軌跡を考えよう(円運動とは限らない)。 回転の特徴として、1. 回転面2. 回転の向き3. 回転の大きさを指定してやれば、回転が決まる。 回転面の指定には、面内の独立なベクトルを二つ指定するよりは、回転面の法線ベクトルを一つ指定したほうが都合がよい。この法線ベクトルに回転の特徴を全て込めよう。イメージとしては回転軸に全情報を込める感じ。回転の向きは法線ベクトルの方向に右ネジに回したときの向きとする。回転の大きさとして、これまでの知識で関連がありそうなのが、面積速度。大きければ回転も大きいと考えられるので、これに比例した量ならばよさそうである。 軌跡の位置ベクトルを r 、速度ベクトルを v 、両者のなす角度を 𝜃 として、微小時間 𝛥t の間に位置ベクトルが掃く面積は、1
2
r v sin𝜃 𝛥t
となる。面積速度は、単位時間に位置ベクトルが掃く面積だから、1
2
r v sin𝜃
である。
ここでベクトルの外積を思い出すと、ベクトル r×v は、1. r v の張る面に垂直(これから回転面が決められる)、2. 向きは r から v に右ネジを回す向き(これから回転の向きが決められる)3. 大きさは| r×v |=r v sin𝜃となり、面積速度に比例している。 よって、ベクトル r×v は回転に関する情報を全て持っているので、原点周りの回転を、 r×v で表わせばよいだろう。
ここで、 r×v の微分について、以下のような特徴がある。
d
dt
( r×v )
=dr
dt
×v+r×dv
dt
=v×v+r×dv
dt
=r×dv
dt
1行目はライプニッツ則を用いた(各成分について実際に計算してみると検算できる)。 2行目は外積の定義から、自分自身との外積は 0 なことによる。 r×v の時間微分は、r と、加速度 dv
dt
の外積に等しい」。
角運動量と力のモーメント
運動方程式 mdv
dt
=F
の両辺に、左から位置ベクトル r との外積を取ってみる。
m r×dv
dt
= r×F
ここで、先ほどの位置ベクトル、速度ベクトルの外積の微分の関係
d
dt
( r×v )
=r×dv
dt
を使う。これを代入して、m r×dv
dt
= d
dt
(m r×v)=r×F
m r×v は前述の通り、原点周りの回転に関係する量で、これを角運動量(ベクトル)、r×F を力のモーメントと定義する。この式の意味するところは、 「角運動量の時間的変化率は、力のモーメントに等しい」。
中心力:角運動量保存則
角運動量が時間的に変化しないのはどのような場合だろうか?角運動量の方程式をもう一度書くと、d
dt
(m r×v)=r×F
先ずは F=0 の場合。外力が働かなければ角運動量は保存するように見える。確かにそうなのだが、これは考えてみると、何のことはない、外力が働かないのだから、物体は等速直線運動を行うだけのことである。 幾何学的には r(t) v の作る三角形もしくは平行四辺形の面積は一定なことを表しているに過ぎない。
では F0 で右辺を 0 とできるだろうか? rF ならば、r×F=0 だから、このとき、角運動量は保存する。d
dt
(m r×v)=0
物体の位置が変化して も rF ということは、 F は常に原点 O の方向(か逆向き)を向いているということになる。そこで、 F を中心力という。
F が中心力のとき、角運動量は保存する」。 ex) フィギュアスケートのスピンスピンしているフィギュアスケートの選手が腕をたたむと、回転が速くなるのを見たことがあるだろう。腕を軸方向に移動させるとき、腕にかかる力は中心力となるので角運動量は保存される。腕の中心軸からの距離が小さくなるので、その分、回転の速度は大きくなることになる。
中心力の例:万有引力の法則
ニュートンは質量 m,M の二体間に働く重力を、向きは互いに引き合う向き、大きさは GMm
r2
であるとした。ここで r は二体間の距離、 G は万有引力定数(6.674 10-11 m3 kg-1s-2)。ベクトルで表すと、r 方向の単位ベクトルは r
r
となるので、
万有引力の法則:F=-GMm
r2
r
r
M を太陽、m を惑星として、太陽を原点とする座標系をとり、惑星についての角運動量の方程式を立てると、d
dt
(m r×v)=r×(-GMm
r2
r
r
)=0
すなわち、惑星の太陽周り(公転)の角運動量は保存する。 角運動量の大きさは、面積速度に比例したから、面積速度も一定(ケプラーの第 2 法則)となることが導出された。 より正確には、太陽と惑星の重心を原点とする座標系をとるべきだが、太陽の質量に比べて、惑星の質量は非常に小さい(最も重い木星で、1/1000 以下、地球で3×10-6 以下)。そのため、太陽を原点とする近似を.した。 このようにニュートンの法則と万有引力の法則を用いて、ケプラーの三法則は全て説明することができる。ケプラーの第 3 法則の導出はまた別の機会に。
余談:角速度ベクトルと r×v
本節は全くの余談です。飛ばしてもらっても構わないほど。 剛体(変形しない物体)の回転運動の解析には、その軸まわりの角速度(単位時間当たりの角度の変化率、[rad/sec])が 𝜔 のとき、向きは軸方向、回転に対して右ネジの進む向き、大きさは 𝜔 の角速度ベクトル 𝜔 を定義して議論を進める。剛体の各点は、軸まわりを円運動することになる。 一方、原点のまわりをある一平面内で回転運動する点の軌跡で、面積速度(の 2倍) r×v を考えた際は、特に円運動に限らなかった。 r×v と角速度ベクトル 𝜔 の関係を調べておこう。今回も、原点のまわりをある一平面内で回転運動する点の軌跡で考えよう。
軌跡の接ベクトル v は 、r 方向と、それに垂直な方向のベクトルの和に分割できる。v =v+vr×v の大きさは
| r×v |=a
r v sin𝜃
=rv
半径 r の円周を考えると、v はその円周の接ベクトルとなっている。比較する角速度ベクトル 𝜔 として、その大きさ 𝜔 を、r𝜔=vとなるように定めてやればよいだろう。v を消去すると、a
| r×v |=a
r 2 𝜔
両者とも向きは同じ方向だから、a
r×v =a
r 2 𝜔
原点まわりの軌跡の面積速度(の 2 倍)ベクトルは、角速度ベクトルの r2 倍となる。 角速度は単位時間に何回転、もしくは何 [rad] 回るかを表す量で、[rad] は角度を、単位円の弧長で表現していた。 つまり、角速度は長さを基準にした量である。一方、面積速度は原点と対象の点を結ぶ直線が、単位時間に掃く面積である。この定義の違いが、r×v 𝜔 にこのような関係を与える背景となっている( a
| r×v |=r va
=r r𝜔=r 2 𝜔
)。
本チャプターのまとめとして、ここでも、微積物理 はじめに のチャートをまた埋めよう。半分、埋まってきた。 角運動量に関する方程式は、運動方程式と r の外積をとることから導出された。運動方程式に何か、他の細工をして別の保存量の関係式が得られたりしないだろうか? 実はもう一つあったりする。

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