Topics: 多重平行平板コンデンサー
  ━━ 試験での近道


静電場のところで習うコンデンサーだが、極板が 3 枚以上ある多重平行平板コンデンサーの問題も定番だろう。単なる練習問題であるばかりでなく、ラジオの選局ダイヤルの先にはバリアブル・コンデンサー(通称バリコン。多数の扇形の極板を要(かなめ)のところで串刺しにしたもの 2 セットを互い違いに配置し、その重なる面積を変えると、容量を調節できる。 LC 回路にバリコンを用いることで共振周波数を変えて、聴きたい放送局を選ぶことができる)のシャフトがつながっていたりと、実用面でも昔は大いに役に立っていた。 今回は、多重平行平板コンデンサーの電荷分布を効率よく求めるための、ちょっとした tips を紹介しよう。また、この考え方が静電場に限らず、時間的に変化する交流や過渡応答の場合でも正しいことも最後に説明する。 <初期設定>面積 S の極板 #1-#3 を真空中で平行に配置し、それぞれに電荷 Q1,Q2,Q3 を与える。表/裏、各面の電荷分布を求めよう。極板は十分に広く、端の効果は無視できるものとする。
正攻法:確実だが手間のかかる方法
端の効果は無視できるものとしているので、対称性から、電場の向きは垂直方向となる。多重コンデンサの解析は、無限に広い平面に面密度 𝜎 で一様に分布した電荷が両面方向に作る電場 𝜎
2𝜖0
と、その重ね合わせに尽きる。ここで 𝜖0 は真空中の誘電率。
このあたりは 基礎: 真空中のガウスの法則と面電荷の作る電場 を参照のこと。 極板は完全導体であるとする。すなわち、内部に電場は存在せず、電荷は全て表面に分布する(外部から電場を加えられても、表面の電荷が内部電場を打ち消すように分布する)。モデルとして、金属板を取り除き、表面のあった場所に面電荷のシートを置く。各シートの作る電場の重ね合わせの結果、金属板のあった黄色の領域の電場が 0 となれば、それが解となる。 図のように各極板の上側の電荷を q'i 、下側の電荷を qi として、極板内部にあたる黄色の領域に電場が存在しないことから、上向きを正方向として、
(-q'1+q1+q'2+q2+q'3+q3)/2𝜖0S=0
(-q'1-q1-q'2+q2+q'3+q3)/2𝜖0S=0
(-q'1-q1-q'2-q2-q'3+q3)/2𝜖0S=0
各極板の電荷が保存することから、
q'1+q1=Q1
q'2+q2=Q2
q'3+q3=Q3
未知変数 6 個に(独立な)方程式も 6 個。ここでは解いてみせないが(後でもっと効率よい方法で解く)、これは解くことができる。 解くことはできるが、極板の数が増えると変数もその倍のペースで増えてしまったり、電池やコイルをつなぐなど、極板に操作を加える場合もその都度、立式が必要で、もうちょっと何とかならないものかと思ってしまう。 そこで、事前にいくつかの領域についてガウスの法則を適用することで、サクッと変数の数を減らすことを考えよう。
未知の変数を減らす
変数を減らすため、問題を解き始める前の予備的考察として、以下の図に示す領域 I,II に対してガウスの法則を適用してみよう。 【予備的考察 I領域 I それぞれにガウスの法則を適用すると、黄色の部分は電場が存在しないことからガウスの法則の左辺=0 より、右辺にあたる、向かい合う電極面の電荷の和は 0, 即ち向かい合う電極面の電荷は大きさが等しく、符号は逆となる。これを未知変数 (q1, -q1),(q2, -q2) としよう。 【予備的考察 II領域 II も同様にガウスの法則の左辺=0 。しかるに全電荷は Q1+Q2+Q3 だから、最上段、最下段の面電荷をそれぞれ qtop, qbottom として、Q1+Q2+Q3=qtop+qbottomでなければならない。 【予備的考察 III予備的考察 I では領域 I の上下の面を貫く電場が 0 であるという条件から、ガウスの法則の右辺=0 となった。この前提条件において、この式は正しい。正しいが、領域 I 内の総電荷が 0 であるとき、外部電荷による電場が加わっていても、全く同じ式が成り立つことに注意しよう(電気力線の描像で考えると、領域内の電荷 0 の場合、外部から境界のある部分を介して入ってきた電気力線は、内部で終端せず、必ず境界のどこか別の場所から外に出ていき、出入りはネットで 0 となるケースに相当する)。つまり、この式は必要条件であって、十分条件ではない。この系で外部電場を与える電荷は何かと考えてみると、それは両端の面電荷 qtop, qbottom である。領域 I の上下の面を貫く電場がともに 0 であるためには、両者の作る電場が打ち消し合ってくれればよいので、qtop=qbottomならばよい。よって、qtop=qbottom=Q1+Q2+Q3
2
と求まる。 未知変数は q'1, q1, q'2, q2, q'3, q36 個(極板の枚数 ×2 )から q1,q22 つ(極板の枚数 -1 、極板間の空間の数)にまで減らすことができた。 この時、極板間の電場は重ね合わせの原理より、例えば極板 #1,2 間について、𝜖0q1
2S
+𝜖0q1
2S
=𝜖0q1
S
となり、向かい合う電荷のみによることも分かる。 まとめると、
予備的考察からの結論:・向かい合う極板間の電荷は、大きさが等しく、符号が逆となる。・両端の極板の、外側を向く面の電荷はいづれも全電荷の1/2 となる。 全電荷が 0 ならば、外側を向く面の電荷も 0 ・結果、未知の変数は極板間の空間の数にまで減らすことができる。
極板の枚数が増えた場合も、全く同様の手順で、同じ結論が得られることが分かるだろう。 以上の考察を事前に頭の中で行ったという前提で、未知の変数は下の図のように q1,q2 の二つだけ用意するところから問題を解き始めればよい。立式には電荷の保存を用いる。変数は 2 個だから、方程式も
Q1=Q1+Q2+Q3
2
+q1
Q3=Q1+Q2+Q3
2
-q2
2 個を解くだけで済む。これは暗算でも解けて、
q1=Q1-Q2-Q3
2
q2=Q1+Q2-Q3
2
未知数 6 個に方程式 6 個だった正攻法に比べて、ほとんど計算らしい計算を経ずに答えに辿り着くことができた。 続いて、<初期設定>に操作を加えた場合の考え方を説明しよう。
操作 1: 接地する
初期設定から極板 #3 を接地する。十分時間が経った後の各面の電荷分布を求めよ。 地球は巨大な導体で、対象の系に比べて電荷量は圧倒的に大きく、電荷溜めとして働く。系を接地すると、(系の電荷に引かれて)系の全電荷を打ち消すだけの電荷が供給/受容される。やり取りされる電荷は地球の全電荷に比べ、無視できるほど小さいので、地球の電位も、系の接地した部位の電位も常に変わらないとしてよい。そのため、接地した部位の電位を基準点 0V とする。 今の例では極板 #3-(Q1+Q2+Q3) の電荷がアースから流れ込み、系の全電荷0 となるので、両端の外側面の電荷も 0 となる。すると極板 #1 の下面の電荷は Q1 に、極板 #2 の上面は -Q1 に、極板 #2 の下面は Q1+Q2 に、それぞれ順次定まり、極板 #3 の上面は -(Q1+Q2) となって矛盾ないことが確かめられる。 多重コンデンサーの全電荷が変化するのは、接地した場合のみとなることに注意しよう。しかも、全電荷は必ず 0 となるので、両端の外側面の電荷も消えてくれる。両端の外側面の電荷は、多重コンデンサーの外部に電場を作るため、これが回路の他の部分と干渉して悪影響を及ぼし、誤動作を引き起こす可能性がある。また、機器のシャーシ部分が帯電することがある。これに人が触れると、そこが接地ポイントとなり、電流が人を通って流れ、感電する危険もある(人体の手ー足間の抵抗は数 k𝛺 程度しかない)。これらを防ぐために、接地が取れているかどうかは特に高電圧を扱う機器では重要となる。
操作 2: 閉回路を構成する場合
電池、抵抗、コイル、コンデンサ等を含む素子 Z を多重コンデンサーの 2 つの極板に接続すると、素子 Z2 つの極板にはさまれる部分でループ、閉回路ができる。 多重コンデンサーのうち、そのループに参加している電荷はループに含まれる極板間に面している側の電荷のみとなり、それ以外の面の電荷は影響を受けず、変化しない。それは図のように極板をくびらせて変形してやれば明らかだろう。 q*top, q*1, q*2, q*bottom は、先ほど求めた<初期設定>における値であるものとする。くびらせて新たにできた面は等電位となるので、その間に電場は存在せず、従って面電荷も 0Z を接続することによる極板 #1 下側の電荷変化を 𝛥q とすると、同じように予備的考察を経て、各面の電荷は図の通りとなる。未知変数 𝛥q 1 個に対し、ループに沿ったキルヒホッフの回路方程式が 1 本立てられるので、これも解くことができる。  接地した場合と異なり、外部素子の一端に多重コンデンサ―から電荷 𝛥q が流れ込むと、他端から 𝛥q が多重コンデンサ―側に流れ出すので、多重コンデンサ―の全電荷は変化しない。よって、両端の外側面の電荷 qtop, qbottom も変化しない。 では外部素子が接地されていたらどうなるだろうか?この場合も、操作: 1 と同様にアースから電荷が補充されて多重コンデンサ―の全電荷は 0 、両端の外側面の電荷 qtop, qbottom0 となる。 閉回路の具体例をいくつか挙げておこう。 <操作 2 ex.1 >電池を接続極板 #1-#3 間を電圧 V の電池でつなぎ、十分に時間が経過した後の各面の電荷分布の<初期設定>からの変化を求めよ。 予備的考察から、図のように電荷の変化を 𝛥q とすればよい。極板 #1-#2 間の容量を C1、極板 #2-#3 間の容量を C2 としよう。図の向きにループを取り、キルヒホッフの法則から、
q*1+𝛥q
C1
+q*2+𝛥q
C2
=V
q*1
C1
+q*2
C2
+(1
C1
+1
C2
)𝛥q
=V
式の上では、 C1,C2 に電池を接続する前の q*1, q*2 が帯電し、これと直列に新たに C1,C2 が加わり、両者に電荷 𝛥q が帯電した場合の式と同一となっていて興味深い。これを解いて、𝛥q=C1C2
C1+C2
{V-(q*1
C1
+q*2
C2
)}
となる。 q*1,q*2 等はそのままにしてあるが、解の値に置き換えても見にくくなるだけなので、このままにしておこう。 <操作 2 ex.2 >コイルを接続時刻 t=0 に、極板 #2-#3 間をインダクタンス L のコイルでつないだ場合の各面の電荷分布の時間的変化を求めよ。予備的考察から、極板 #2 上側の面より上の電荷分布は影響を受けない。電荷の変化をここでは図のように q(t)、コイルを流れる電流を i(t) とする。 t=0 の初期条件a
q(0)=0
i(0)=0
のもと、図のループに沿った回路方程式はa
q*2+q
C2
+Ldi
dt
=0
i=dq
dt
となる。これよりd2q
dt2
=-1
LC2
(q+q*2)
これは次のように解けばよい。d2q
dt2
=d2q+q*2
dt2
=-1
LC2
(q+q*2)
(q+q*2) について、単振動の方程式となるので、A,B を定数として、a
q+q*2=Acos(1
LC2
t)+Bsin(1
LC2
t)
i=-A
LC2
sin(1
LC2
t)+B
LC2
cos(1
LC2
t)
初期条件からA=q*2, B=0が決まる。よって、a
q+q*2=q*2cos(1
LC2
t)
i=-q*2
LC2
sin(1
LC2
t)
極板 #2 下側の電荷、電流とも角周波数 1/LC2 の単振動となる。 最後に土台となる、ガウスの法則、重ね合わせの原理を復習しておこう。
基礎: 真空中のガウスの法則と面電荷の作る電場
基礎と言っても、物理ではこれらが一番重要で大切。
真空中のガウスの法則En dS=𝜌
𝜖0
dV
領域 V の境界面 S を貫く電場の面積分は、(内部の電荷) /𝜖0 に等しい。 n は境界面における単位法線ベクトルで、向きは外側に向かう。E は各点における電場ベクトル、𝜌 は電荷密度。 𝜖0 は真空中の誘電率。左辺は表面についての面積分で、右辺は内部についての(体積の)積分。
図では内部の電荷であることを視覚的に分かりやすくするため、境界面が殻のように描かれているが、実際は境界面に厚みはない。式について、簡単に説明すると、En は電場の法線成分となるので、En dS は微小面 dS を貫く電場の大きさと微小面の面積 dS の積を表す。それを境界面全体に渡って積分したものが、左辺。右辺は (境界内部の電荷密度) /𝜖0 を内部全体に渡って空間積分したものなので、(内部の電荷) /𝜖0 となる。両者が等しいという等号部分がガウスの法則の主張するところで、これには何故はない。過去の実験・検証で、法則として正しいことが確認されている。 境界が一般の形状の場合はさておき、領域の形が単純なものならば、高校の範囲でも積分を実行することができる。無限に広い平面に面密度 𝜎 (𝜎>0) で一様に分布した電荷が作る電場はそのよい例である。 対称性から、電場は電荷面に垂直で、向きは面から離れる方向となる。領域 V として電荷面を含む直方体をとる。上・底面の面積を S としよう。ガウスの法則の左辺は、上下の面を貫く電場のみを考えればよいので、その大きさを E として、
E2S=𝜎S
𝜖0
E=𝜎
2𝜖0
面密度 𝜎 の無限に広い面電荷は、その裏表両面に垂直方向、面から離れる向きに大きさ 𝜎
2𝜖0
の電場を作る。
複数枚の面電荷がある場合、各点の電場は重ね合わせの原理が成り立つ。
電場の重ね合わせの原理電場は、その由来が電荷によるものであれ、電磁誘導によるものであれ、重ね合わせの原理が成り立つ。それぞれのベクトル和をとればよい。
こちらも例として、面密度 𝜎,-𝜎 の無限に広い面電荷を互いに平行に配置した場合を考えよう。それぞれ面電荷から離れる向き、近づく向きに大きさ 𝜎
2𝜖0
の電場を作るので、重ね合わせの結果、向き合う面電荷の間のみ 𝜎
𝜖0
の電場があり、それ以外は打ち消し合って電場は存在しないことが分かる。
終わりに
コンデンサーの問題は、電位差やエネルギーを求めるにせよ、極板を動かすことで加えた仕事を求めるにせよ、電荷分布を求めることがその第一歩となる。ここで紹介した予備的考察と操作を加えたときの変数の取り方を参考に、見通しよく問題を解き進めてほしい。 見落としがちな注意点を 2 つ。 ガウスの法則は、授業では静電場のところで出てくるため、静電場に限って成り立つと誤解してしまっている人を見かけるが、ガウスの法則も、電場の重ね合わせの法則も、静電場に限らず広く一般の場合に成立する。従って、ここで行った予備的考察は、交流電源を接続した場合や、過渡応答においても正しい。一方、クーロンの法則は静電場でのみ成立することを覚えておいてほしい。 また、金属板にそのままガウスの法則を適用しなかった理由は次の通り。完全導体の比誘電率は定義できない(無限大となる)。ガウスの法則に定義できない量を持ち込んでしまうのを避けるため、本チャプターでは真空中の面電荷モデルにガウスの法則を適用している。

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