Topics: ドップラー効果 前編
━━ 暗記するな、図を描け
a
高校時代、ドップラー効果の公式について、どちらが分子でどちらが分母だったか、はたまた符号がどうだったか、分からなくなって困ったのはきっと自分だけではないはず。対策は簡単。暗記に頼らず、その場で導出することである。 前編では 1 次元の場合、後編では 2 次元以上の場合について、それぞれ説明する。 何が起きているか? 波がない時、空気なり、水なり、媒質が静止して見える座標系で考える。媒質が風を受けて一定の速度で流されている場合は、その座標系も一緒に等速度で移動していくことになる。 その座標系では、音波は方向によらず、音源から等速度で球面波として広がっていく。 音源が静止している場合と、移動している場合の、ある時刻のスナップショットを比較すると、音源よりも先となる領域では山と山の間隔は短く、音源よりも後となる領域では山と山の間隔は長くなっていることが分かる。これがドップラー効果の(音源が移動する場合の)原理である。音源が静止の場合音源が移動する場合また、観測者が移動している場合、波自体の波長は変わらないが、単位時間に観測者を通過する波の数は当然、変化するだろう。つまり、観測者の感じる周波数は変化する。 いきなり任意の方向について、ドップラー効果を求めるのは敷居が高いので、先ずは音源、観測者ともに一直線上にある場合を考えよう。 1 次元の場合 ここでも、波がない時、媒質が静止して見える座標系で考える。媒質を伝わる波の速さを c とし、音源 S、観測者 L ともに x 軸上にあって、x 方向にそれぞれ一定の速度 VS, VL で移動しているものとする。 VSVLxSLc
波長を 𝜆、周波数として、音源、波のない時の媒質が静止して見える系のある固定点、観測者のそれぞれにとっての周波数を 𝜈S, 𝜈M, 𝜈L とする。 周波数と一言で片付けてしまっているが、各々、以下のような意味を持っていて役割が微妙に異なる。このことを把握していないと、この先、混乱してしまうので、しっかり理解してほしい。 𝜈S:音源が単位時間あたりに媒質に送り出す波の数。𝜈M:媒質が静止して見える系のある固定点を単位時間あたりに通り過ぎる波の数。 音速と波長との間に、 𝜈M=c
𝜆 の関係がある。𝜈L:観測者が単位時間あたりに計測する波の数。 つまり、単位時間あたりに観測者を通り過ぎる波の数。 そして、初期条件として与えられるのは、音源の周波数 𝜈S と波の速さ c 。なお、「波の数」と言うとき、一周期分の波のことを「波」と呼んでいる。 以下、A から D まで、それぞれ 1 波長/ 1 周期分の波の図を描いて考える方法、正弦波を正攻法で求める方法、ガリレイ変換による方法を順次、示していく。どれも本質は同じだが、物の見方、アプローチが異なる。切り口を変えて物事を眺めることで、現象に対する理解も深まることと思う。また、いづれも 2 Step でドップラー効果の式にたどり着くことができる。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ とは言うものの、時間がない人のため、また、試験などで手っ取り早く解答を得たい向きのため、ハイブリットなやり方をまずは紹介することにしよう。 おすすめの方法 【 事前準備:媒質が静止した系に対する、音源・観測者・波の相対速度を求める 】 媒質が静止した系に対する音源、観測者の速度、波の伝わる速度を求める。風があって空気が一定の速度で流れているような状況では、その分を差し引いた値となる。それぞれを VS, VL, c とする。 【 Step I:波長 𝜆 を求める 】 音源は、Δts=1
𝜈S の間に 1 波長分の波を送り出す。その間に波の先端は媒質中を cΔts 進む。一方、波の後端は音源の位置となるので、波の先端を送り出した時よりも VSΔts だけ進む。 Δts 後xx cΔtsVSΔtsc よって波長 𝜆 は、𝜆=(c-VS)Δts=c-VS
𝜈Sとなる。 【 Step II:観測者の周波数 𝜈L を求める 】 観測者が VL で移動する場合、波は観測者を速度 c-VL で通り過ぎる。従って、単位時間に観測者を通り過ぎる波の数 𝜈L は、となり、ドップラー効果の式が得られた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ A. 1 波長分の図を描いて考える ── 空間軸で 音源から x 方向に送出された 1 波長分の図を描いてやることで、進行波の波長 𝜆 を特定できる。これからドップラー効果を次の 2 Step で求めることができる。 【 Step I:波長 𝜆 を求める 】音源は、Δts=1
𝜈S の間に 1 波長分の波を送り出す。その間に波の先端は媒質中を cΔts 進む。一方、波の後端は音源の位置となるので、波の先端を送り出した時よりも VSΔts だけ進む。 Δts 後xx cΔtsVSΔtsc よって波長 𝜆 は、𝜆=(c-VS)Δts=c-VS
𝜈Sとなる。音源が静止している場合よりも、波長が短くなっていることに注意。媒質が静止して見える系の、ある固定点の振動数 𝜈M は、単位時間あたりにその点を通り過ぎる波の数だから、𝜈M=c
𝜆=c
c-VS𝜈S元の音源の周波数 𝜈S よりも高くなる。 【 Step II:観測者の周波数 𝜈L を求める 】 観測者を、1 波長分の波が通過する時間を ΔtL とする。この間、波の先端は cΔtL 進み、波の後端にあたる観測者は VLΔtL だけ進む。 cΔtLVLΔtLcΔtL 後cxxcこの差が 1 波長となるので、𝜆=(c-VL)ΔtL𝜆 はすでに決まっているので、ΔtL を逆算できる。観測者の周波数 𝜈L は、 | 𝜈L | =1 ΔtL=c-VL 𝜆 | |
| | =c-VL c-VS𝜈S | |
ドップラー効果の式が導出された。 この式を覚えて試験中、符号が分からなくなって困るよりも、導出方法を理解して、その場で導き出した方が精神的にも楽だと思う。音源、観測者それぞれについて 1 波長分の図を書いてみるだけで事足りる。 暗記するな、図を描け である。 このように、空間軸で考える際は、進行波の波長 𝜆 をまず求めてやればよい。それは音源から見ても、媒質上の固定点から見ても、観測者から見ても、共通の値となる。 B. 1 周期分の図を描いて考える ── 時間軸で 空間軸で 1 波長分の図を描くのに比べて、少し分かりにくくなるが、時間軸においても同様に 1 周期分の図と所要時間の考察からドップラー効果を求めることができる。この場合、周波数よりもその逆数である周期を考えてやるとうまくいく。 【 Step I:固定点における 𝜈M を求める 】 媒質が静止して見える系のある固定点で、やって来る波の時間的な変化を観測する。もしも、音源も静止しているならば、波の先端が到着してから、後端が到着するまでにかかる時間(周期)は、Δts=1
𝜈S となる。 音源が VS で移動するとき、波の後端の到着は、音源が移動しない場合に比べて早まることになる。どのくらい早くなるだろうか?音源が波の先端を送出してから、後端を送出するまでの時間は音源の 1 周期、Δts=1
𝜈S のままなので、その間に音源は VSΔts=VS
𝜈S だけ進む。よって、波の後端は、音源が移動しない場合に比べて、この距離を波が移動する時間 VS
𝜈S1
c だけ早く、到着することになる。すなわち、固定点において観測される周期 1
𝜈M は、音源が静止の場合に比べ、VS
𝜈S1
c だけ短くなる。 t1
𝜈SVS
𝜈S1
c先端後端1
𝜈M 従って、音源が移動する場合の固定点における周期 1
𝜈M は、 | 1 𝜈M | ≡1 𝜈S-VS 𝜈S1 c=c-VS c1 𝜈S | |
| ∴𝜈M | =c c-VS𝜈S | |
周期について、音源移動の効果は、短縮された時間の差( VS<0 なら延長された時間の和)として現れる。 【 Step II:観測者も移動する場合 】 観測者が静止している場合、周期は 1
𝜈M で観測される。この時、波は観測者を速度 c で通り過ぎる。 観測者が VL で移動する場合、波は観測者を速度 c-VL で通り過ぎる。従って、観測者を波の先端から後端までが通り過ぎる時間 ΔtL=1
𝜈L は、速度 c の場合に比べ、c
c-VL 倍かかることになる。 t1
𝜈M先端後端c
c-VL×1
𝜈L従って、移動する観測者が観測する周期 1
𝜈L は、 | 1 𝜈L | ≡c c-VL 1 𝜈M | |
| ∴𝜈L | =c-VL c 𝜈M=c-VL c-VS𝜈S | |
周期について、観測者移動の効果は、波の(相対)速度の逆比の積、即ち時間軸方向の伸長( VL<0 なら縮小)として現れる。 こうして、時間軸で考えても、ドップラー効果が導出されたが、空間軸では観測者の移動の有無によらず、共通だった波長 𝜆 に相当するものがないのが、少し分かりにくい原因となっているのかもしれない。 C. 正攻法:音源の式から進行波を求める 音源の振動が、媒質を伝わっていく様子を数式で表現してみよう。具体的には、時間 t を変数とする音源の正弦波から、位置と時間 (x,t) を変数とする進行波を求める。 【前提:音源が移動しない場合の進行波】 x 軸上の位置 xS0 にある音源が、A(t′)=Asin(-2𝜋𝜈St′)と、正弦波の振動を行うとする。負号は進行波の表式で都合がよくなるようにつけてある。音源で作り出された波形は速度 c で媒質を進行して行く。時刻 t′ で送出された波が時刻 t に位置 x へ到達するとすると、t-t′ =x-xS0
cだからt′=t-x-xS0
cとなる。これを A(t′) に代入して、 | A(x,t) | =Asin(2𝜋𝜈S cx-2𝜋𝜈St-2𝜋𝜈S cxS0) | |
| | ≡Asin(2𝜋 𝜆x-2𝜋𝜈St+𝛼) | |
t を変数とする音源の正弦波 A(t) から (x,t) を変数とする進行波 A(x,t) が導出された。もちろん、x=xS0 を代入すれば、元の A(t) に戻る。 【Step I:音源が移動する場合の進行波】 音源が速度 VS で移動するものとすると、音源の位置 xS(t′) は、xS(t′)=xS0+VSt′となる。先ほどと同様に、時刻 t' で送出された波が時刻 t に位置 x へ到達するとすると、t-t′ =x-xS(t′)
c=x-(xS0+VSt′)
cより、 | (c-Vs)t′ | =ct-(x-xS0) | |
| ∴t′ | =ct-(x-xS0) c-Vs | |
これを A(t′) に代入して、aA(x,t) | =Asin(2𝜋𝜈S c-Vsx-2𝜋c c-Vs𝜈St-2𝜋𝜈S c-VsxS0) |
| ≡Asin(2𝜋 𝜆x-2𝜋𝜈Mt+𝛼M) |
t を変数とする音源の正弦波 A(t) から (x,t) を変数とする進行波 A(x,t) が導出された。 これより媒質を伝わる進行波の振動数 𝜈M、波長 𝜆 は、aで与えられる。 また、A(x,t) を (x,t) の関数とみれば進行波となり、x を固定し、t のみの関数とみれば、それは位置 x における観測者が測定する波の時間的変化を表す式となる。故に、観測者が移動していない場合は、単にこの式で x を定数 xL に置き換えればよい。 【Step II:観測者も移動する場合】 観測者が移動している場合は、進行波の式に観測者の位置に関する情報 xL(t) を入力して x を消去し、再び時間のみの関数としてやれば、観測者の測定する波の時間的変化を表す式が得られる。 観測者が速度 VL で移動しているとすると、観測者の位置 xL(t) は、xL(t)=xL0+VLtとなるので、進行波の式に代入して、 | A(xL(t),t) | =Asin(2𝜋𝜈S c-Vs(xL0+VLt)-2𝜋c c-Vs𝜈St-2𝜋𝜈S c-VsxS0) | |
| | =Asin(-2𝜋c-VL c-Vs𝜈St-2𝜋𝜈S c-Vs(xS0-xL0)) | |
| | ≡Asin(-2𝜋𝜈Lt+𝛼L) | |
よって、観測者が測定する波の振動数 𝜈L は、𝜈L=c-VL
c-Vs𝜈Sとなり、ドップラー効果の式が得られた。 D. 座標変換からも導出できる 1 次元の場合、音源、媒質、観測者がそれぞれ静止して見える三つの座標系: x′, x, x″ 系間に、ガリレイ変換をほどこすことで、各々が観測する周波数が変化することを自然に導き出すこともできる。 本質的なことではないが、計算に便利になるように、x′, x, x″ 系の各原点 O′, O, O″ が時刻に t=0 おいて一致するように座標系を採っておく。こうすることで、各座標間の変換は、となる。また、音速は音源、観測者の速度より大きいとする。c>VS, VL x 系において音源と観測者の間の領域を見ると、そこには正方向へ進む進行波が存在しているだろう。そして、媒質を正方向に伝わる波は、どの座標系においても正方向に進むように観測されることになる。 VSVLxx′x″c𝜆OO′O″媒質が静止して見える x 系では、波の進む速さは c だから、波長 𝜆 と周波数 𝜈M は𝜈M=c
𝜆の関係がある。 x 系において、音源と観測者の間の領域を正方向へ進む進行波 A(x,t) を考えると、この時点では 𝜆,𝜈M ともに未定だが、振幅を A、(x,t)=(0,0) における位相を 𝛼 として、A(x,t)=Asin(2𝜋
𝜆x-2𝜋𝜈Mt+𝛼)=Asin(2𝜋
𝜆x-2𝜋c
𝜆t+𝛼)と表せる。この式が有効な (x,t) の範囲は後ほど検討することにしよう。 【Step I:音源と一緒に移動する系から見た進行波】 A(x,t) を x′ 系に座標変換すると、 | A(x′,t) | =Asin{2𝜋 𝜆(x′+VSt)-2𝜋c 𝜆t+𝛼}=Asin{2𝜋 𝜆x′-2𝜋c-VS 𝜆t+𝛼} | |
| | ≡Asin{2𝜋 𝜆x′-2𝜋𝜈St+𝛼} | |
2 行目で、周波数を 𝜈S としてよいのは、 x′ 系に固定した別の観測者 L′ を考えると、音源 S と L′ の距離は一定で、媒質が -VS で動いていることになり、結局、波の速さが c から c-VS になったに過ぎないので、 L′ が観測する波の先端と後端を受け取る時間差は、 S が送出する波の先端と後端の時間差に等しく、結果、周波数は 𝜈S のまま変わらないことによる。経験的には、音源、観測者が地面に対して動かない時、風が一定の速度で吹いていても、聞こえてくる音の高さは変わらず、ドップラー効果は現れないことと対応している。 また、位相の定数を同じ 𝛼 としてよいのは、各座標系の原点を t=0 おいて一致するようにとったから。 これより 𝜆 が求まる。𝜆=c-VS
𝜈S 【Step II:観測者と一緒に移動する系から見た進行波】 同様に A(x,t) を x″ 系に座標変換すると、 | A(x″,t) | =Asin{2𝜋 𝜆(x″+VLt)-2𝜋c 𝜆t+𝛼}=Asin{2𝜋 𝜆x″-2𝜋c-VL 𝜆t+𝛼} | |
| | ≡Asin{2𝜋 𝜆x″-2𝜋𝜈Lt+𝛼} | |
これから 座標変換によっても、ドップラー効果を導き出すことができた。ガリレイ変換に含まれる時間項が、進行波の位相部分において時間項側に移動するために、時間項の係数となる周波数が変化していることが分かる。 最初に説明した、三つの周波数と、波長及び波の相対速度について、もう一度まとめると、以下の関係がある。 𝜈S:音源が単位時間あたりに媒質に送り出す波の数。 x' 系から見た音速と波長との間に、 𝜈S=c-VS
𝜆 の関係がある。𝜈M:媒質上の一点を単位時間あたりに通り過ぎる波の数。 x 系から見た音速と波長との間に、 𝜈M=c
𝜆 の関係がある。𝜈L:観測者が単位時間あたりに観測する波の数。 つまり、単位時間あたりに観測者を通り過ぎる波の数。 x" 系から見た音速と波長との間に、 𝜈L=c-VL
𝜆 の関係がある。 いづれも、(周波数)=(波の相対速度)
(共通の波長)となっている。 なお、この議論が有効な範囲は、音源よりも右側の領域であることと、音源が観測者を追い抜かず、観測者が x 方向への進行波を受け取れるという条件より、{ xS(t)≤x(t) }∧{ xS(t)<xL(t) }が成り立つ (x,t) となる。 1 次元におけるドップラー効果の話はここまで。 次は 2 次元の場合へと拡張したいが、最初の図を見ても分かるように、波長 𝜆 というものをどう定義してよいか、 よくわからない。ではどの方法をとるのがよいだろうか?