最小作用の原理と Hamilton 形式
━━ 原理と定理
a
Hamilton 形式において、最小作用の原理はどのように記述されるか、説明に入る前に、いくつか前提を明確にしておこう。 試行曲線、変分曲線の Legendre 変換 Legendre 変換で、曲線は曲線に写像される。 最小作用の原理を考える際、Lagrange 形式では、 TQ 上の試行曲線と変分曲線として、配位空間 Q 上の試行曲線 C と、その変分曲線 C' を TQ に持ち上げた曲線 C# ,C#' のみを対象としていた( TQ 上の勝手な曲線を選べたわけではない)。 ここまで、Lagrange 形式を Legendre 変換したものが Hamilton 形式という立場を取っているので、TQ 上の試行曲線と変分曲線 C# , C#' を Legendre 変換 で T*Q へ写像した曲線 C* , C*' を考える対象とするのが自然だろう。Hamilton 形式における最小作用の原理も、この持ち上げられた曲線群を対象とするものとする( T*Q 上でも、曲線を勝手に選べるわけではない)。 具体的には、 Legendre 変換の定義を用いて、pi(t) をpi(t)≡∂L(qi(t),␒qi(t),t)
∂␒qiとして、 C*(qi(t),pi(t)) , C*'(qi'(t),pi'(t)) を決定してやればよい。これが Q から T*Q への持ち上げとなる。 また、Legendre 変換の行先となる T*Q 上の変分曲線 C*' の変分も、本質的に Q 上の変分 𝛿qi のみで決定されることになる(変数 pi に関する変分 𝛿pi は独立ではない)。今後使うことはないが、確認しておこう。 | pi' | ≡∂L(qk+𝛿qk,␒qk+d dt𝛿qk,t) ∂␒qi | |
| | ≃∂L(qk,␒qk,t) ∂␒qi+∂2L ∂qk∂␒qi 𝛿qk+∂2L ∂␒qk∂␒qi d dt𝛿qk | |
| | ≡pi+𝛿pi | |
変分 𝛿pi は 𝛿qi とその時間微分により決定される。 Legendre 変換 / 逆変換で元の点に戻ること Legendre 変換で写像された各点は、逆変換で元の点に戻ること、従って Legendre 変換で写像された試行曲線、変分曲線も、逆変換で元の曲線に戻ることも確認しておく。 速度配位空間 TQ 上の各点 (qi,␒qi) は、 Legendre 変換により、pi≡∂L(qi,␒qi,t)
∂␒qiとして、相空間 T*Q 上の点 (qi,pi) に写像される。 TQ 上の特性関数 L(qi,␒qi,t) は、T*Q 上では H(qi,pi,t)≡␒qi pi-L に代わる。 逆 Legendre 変換で元の点に戻ることを確かめるには、 逆 Legendre 変換の行先␒qi'≡∂H
∂piが元の ␒qi と一致することを示せばよい。 | ␒qi'≡∂H ∂pi | =∂ ∂pi(pk ␒qk-L)=␒qi+pk∂␒qk ∂pi-∂L ∂qk∂qk ∂pi-∂L ∂␒qk∂␒qk ∂pi | |
| | =␒qi+(pk-∂L ∂␒qk)∂␒qk ∂pi | |
| | =␒qi | |
三番目の等号は、H について、 qi と pi を独立変数として扱っていること、四番目の等号は pk の定義から成り立つ。こうして、Legendre 変換で写像された各点は、逆変換で元の点に戻ることが分かった。 よって、TQ 上の試行曲線と変分曲線 C# , C#' から Legendre 変換で T*Q へ写像された曲線C* , C*' は、逆 Legendre 変換により TQ 上、元の曲線 C# , C#' に戻る。 そして、 C# , C#' の各点は、Q から TQ への持ち上げの条件␒qi=dqi
dtを満たす。 各曲線の関係は下図のようになる。 qiqj␒qiC#C#'qiqjpiC*C*'TQT*QqiqjCC'Q持ち上げ持ち上げ射影射影 Legendre 変換逆変換␒qi≡dqi dtpi≡∂L ∂␒qi |
以上を踏まえて、Hamilton 形式では、最小作用の原理はどのように記述されるかを考えよう。 Hamilton 形式における最小作用の原理 T*Q から TQ への(逆)Legendre 変換により、特性関数は H(qi,pi,t) から⏨L(qi,␒qi,t)≡pi ␒qi-H(qi,pi,t)に代わるものとする(今回は出発点を T*Q としているため、 TQ での特性関数に ⏨ をつけて区別している)。 ⏨L について、最小作用の原理の原理を適用する。即ち、端点で 𝛿qi=0 とする変分の元、作用積分が停留値をとる条件を求める。変換で舞台は TQ となるので、積分も、 TQ 上の曲線 C# , C#' に沿って行う。とりあえず、各変数について、変分をとってみると(変分は同時刻でとる)、 | 𝛿I | ≡𝛿∫C# ⏨L dt | |
| | =∫{pi 𝛿␒qi+␒qi 𝛿pi-(∂H ∂qi 𝛿qi+∂H ∂pi 𝛿pi) }dt | |
解曲線を含む試行曲線と、その変分曲線は、Q からの持ち上げなので、𝛿␒qi≡d(qi+𝛿qi)
dt-dqi
dt=d
dt𝛿qi𝛿␒qi は 𝛿qi の時間微分に等しい。すなわち、 𝛿 と d
dt は可換となる。これから 𝛿I の第 1 項は、 | ∫pi 𝛿␒qi dt | =∫pi d dt𝛿qi dt | |
| | =[pi 𝛿qi ]tEtS-∫dpi dt 𝛿qi dt | |
| | =-∫␒pi 𝛿qi dt | |
と部分積分できるので、𝛿I=∫{-(␒pi+∂H
∂qi ) 𝛿qi+(␒qi -∂H
∂pi) 𝛿pi} dt となる。停留値をとる条件として、𝛿I=0 を要請したいのだが、𝛿pi は 𝛿qi と独立ではないから、これから直ちに 𝛿qi , 𝛿pi の各係数を 0 とすればよいということにはならない。 ところが、ありがたいことに逆 Legendre 変換の変数定義␒qi≡∂H
∂piから、第 2 項は 0 とできる。よって、𝛿I=[pi 𝛿qi ]tEtS+∫{-(␒pi+∂H
∂qi ) 𝛿qi} dt 端点の条件を明らかにするために、敢えて第 1 項、部分積分からの項も復活させた。端点で 𝛿qi=0 の元、任意の 𝛿qi に対して 𝛿I=0 となるためには、␒pi+∂H
∂qi =0となればよい。逆 Legendre 変換の変数定義とあわせて、 ⏨L の作用積分が停留値をとる条件は、aで与えられる。 こうして、Q 上の端点を固定した、最小作用の原理から、Hamilton 方程式が導出できた。 ちょとした Tips だが、Hamilton 方程式を書き下す際、どちらに負号がつくか、忘れてしまったら、この導出過程を思いだすとよい。片方は、逆 Legendre 変換の定義だったので、␒qi についての式が正符号、反対側が負号と分かる。後は qi と pi を入れ子にしてやれば Hamilton 方程式の出来上がり。 このチャプターでは、逆 Legendre 変換で相空間 T*Q 上の C* を TQ 上の C# に移し、そこで最小作用の原理を適用するという立場を取ってきたので、𝛿pi は独立ではなかったし、 T*Q 上では試行曲線、変分曲線ともに Q から持ち上げた曲線のみとなるため、任意の曲線をとれるわけではなかった。 教科書によっては、 T*Q 上で端点固定の元、𝛿␒qi≡d(qi+𝛿qi)
dt-dqi
dt=d
dt𝛿qiを暗黙に認めた後、𝛿I=∫C*{-(␒pi+∂H
∂qi ) 𝛿qi+(␒qi -∂H
∂pi) 𝛿pi} dt において、𝛿pi と 𝛿qi を独立に変分をとるものとして、( 各項の係数 )=0 を要求し、Hamilton 方程式の導出としているものも多々見られるが、その場合はそもそもの Lagrange 形式における最小作用の原理には立脚していないこと、試行曲線とその変分曲線の対象の範囲が異なっていることに注意。 この考え方はそうした意味で、もう少し言葉を足してやった方がよいのではと思うが、𝛿pi と 𝛿qi を独立にとれるというのは魅力的である。そこで、原理ではなく、定理としてまとめておく。 定理:相空間 T*Q における停留値問題 Legendre 変換は一旦忘れて、相空間 T*Q で端点を固定した曲線群について、Lagrangian に相当する量の積分が停留値となるような曲線の条件を考える。今度は試行曲線、変分曲線ともに任意にとれ、𝛿qi ,𝛿pi も独立なものとする。 Lagrangian に相当する量として、L≡pi dqi
dt-Hの作用積分を I とする。I≡∫C#L dt=TE∫tSpi dqi
dt-H dtこれまでと異なり、 ␒qi ではなく、dqi
dt としているのは、これが 逆 Legendre 変換で決まる量ではなく、qi(t) の時間微分であることを強調するため。𝛿dqi
dt≡dqi+𝛿qi
dt-dqi
dt=d
dt𝛿qiを用い、I の変分 𝛿I は(変分は同時刻でとる)、 | 𝛿I | =𝛿TE∫tSpi dqi dt-H dt | |
| | =TE∫tS𝛿pi dqi dt+pi 𝛿dqi dt-∂H ∂qi𝛿qi-∂H ∂pi𝛿pi dt | |
| | =[pi 𝛿qi]tEtS+TE∫tS-(dpi dt+∂H ∂qi)𝛿qi+(dqi dt-∂H ∂pi)𝛿pi dt | |
端点固定の元、任意の 𝛿qi ,𝛿pi について、𝛿I=0 となるためには、 aHamilton 方程式が要求されることが分かる。 Hamilton 方程式を満たす曲線は、実現される曲線だったので、相空間において、L についての作用積分の停留値を与える曲線は、現実の経路となる。Q からの持ち上げ以外のあらゆる曲線を対象としても、解曲線が停留値を与えるというのは興味深い。 <定理>相空間におけるL についての作用積分の停留値を与える曲線は、Hamilton 方程式を満たす。 本来の最小作用の原理では、配位空間 Q における始点、終点を指定すれば現実の経路が定まったことに比べると、この定理は相空間 T*Q での始点、終点を指定する必要があるので、共役運動量の端点を指定する必要がある分、劣っている。劣ってはいるがしかし、この定理は、 qi ,pi の入り混じった座標変換( Symplectic シンプレクテック変換)を行う上での基礎となるので、ここで取り上げた。 なお、端点で 𝛿pi=0 の条件は導出に使っていないので、実は端点においても、𝛿pi は任意にとれる。 端点で任意の 𝛿pi に対して成り立つということは、 𝛿pi=0 と条件を強めても成り立つので、座標変換で役に立つという観点から、端点で 𝛿pi=0 もあわせて仮定しておいた。 次は、電磁場中の荷電粒子について、その Lagrangian と Hamiltonian 。この場合、共役運動量と mv 運動量は異なるのだった。