最小作用の原理
   ━━ 道は一つではない


Fermat(フェルマー)の原理
幾何光学における光の軌跡に関する原理で、 「光は最短時間で到達できる経路を通る」。 原理だから、何故はない。この主張から光の経路があまねく説明されるのみである。 子供のころに習った、鏡の反射で、入射角と反射角が等しいというスネルの法則も、鏡像をとった図を見てもらえばフェルマーの原理から明らかだろう。このようにスネルの法則の背後には、より深遠な法則が隠されていた。
力学においても、質点の経路は、ある量を最小にするようなものとして規定される、というようなことになれば、光も物質も同じ原理に従うことになり、全くもって美しい。 フェルマーの原理を、少し、数学的に定式化しておこう。各点 (x,y) における光の速度を 、c(x,y) として位置の関数とする。各経路は始点と終点が決まっている。考えている経路を C として、所要時間はT=1
c(x,y)
ds
となる。T を最小にする経路 Cmin が実際に光がとる経路となることが実験によって確かめられている。 最大、最小を求める常套手段は、微分して 0 となること、極値を探すことだったが、T の右辺を見てみると、関数ではなく、いわば関数の関数になっている。積分結果は値で変数を含まないから、そもそも何で微分してよいかも謎である。可能な全ての経路について、実際に T を計算しなければならないとしたら、せっかくの原理もあまり役に立たないだろう。しかし、方法はある。
最小作用の原理( Hamilton の原理)
話を力学に戻そう。 質点系(自由度 f )の、時刻 tS から tE までの運動を考える。始点と終点の位置は決まっているものとする。 実現するかどうかはさておき、ある経路の候補 C について、時刻 t における位置を ( q1(t), q2(t), ,qf(t) )、速度を ( q1(t), q2(t), ,qf(t) ) とする。 系を特徴づける Lagrangian L が位置と速度の関数として与えられたとする。 L(q1, q2, ,qf, q1, q2, ,qf)作用(積分)I を経路 C に沿っての時間積分I[ q ] L(q1(t), q2(t), ,qf(t), q1(t), q2(t), ,qf(t)) dtで定義する。[ q ] は、変数ではなく、関数 q(t) を引数にとる、ということを表している。このように、関数の関数となっているものを汎関数と呼ぶ。
最小作用の原理( Hamilton の原理 ) 作用積分を停留値とするような経路が実際に系のとる運動である
停留値であるとは、経路を始点、終点以外で任意の方向に微小に変化させたとき、作用積分の値が(その微小変位の一次の近似の範囲で)変わらないということ。 考えている経路を C (qi(t)) , i=1f 、始点 tS 、終点 tE の位置は同一とし、途中の経路を微小変位させた経路を C' (qi(t)+𝜖i𝜂i(t)) , i=1f とする。
経路の位置を表す空間を配位空間 Q と呼ぶ。 1 変分 𝛿I を、𝛿Ifi=1{I[C'(qi+𝜖i𝜂i)]-I[C(qi)]
𝜖i
} a𝜖1,…=0𝜖i
と定義し、𝛿I=0が成り立つ時、C (qi(t)) は停留値をとり、現実に実現される経路となる。 1 変分についてはチャプターを改めて説明します。 また、いきなり出てきた、系を特徴づける Lagrangian L だが、保存場における 1 粒子系の場合、運動エネルギーを T 、ポテンシャル・エネルギーを U として、 L=T-U と表せることが、本当に不思議なことだが、分かっている。後で示すが、このようにしてやると、デカルト座標の慣性系における Newton の運動方程式が自然と導き出される。 現時点ではまだ各径路について、作用積分が停留値かどうか、いちいち計算して確かめなくではならないし、それは現実的に可能なこととも思えない。しかし、光学も力学も、同じ思想で物事を理解できる、というこの事実は、人類が自然の本質に深く切り込み、宇宙のグランドデザインに触れているような高揚感を強く覚えるのである。 あとはこの原理を実際の役に立つように、数学という道具を整えてやればよい。

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