Noether (ネーター) の定理
   ━━ 系の対称性と保存則


Noether の恒等式
今度は両端を固定しない変分を考えよう。位置 (qi,) の変分だけでなく、時間 t の変分もあわせて考える。 曲線 C (qi(t),) に対し、qi の変分 𝛿qi の描く曲線(図の破線)に、t の変分 𝛿t を作用させることにより、試行曲線 C' (qi'(t'),) が定まる。a
qi'(t')= qi(t)+𝛿qi(t)
t'=t+𝛿t(t)
𝛿qi(t) は異なる時刻間の変分となるため、扱いずらい。そこで、C C' の同時刻での変分を改めて 𝛿Lqi(t) と定義する。 𝛿Lqi(t)qi'(t)-qi(t)添え字の L Lagrange 方程式を求めたとき、やはり同時刻の変分を用いたから(端点は固定だったが)。
各変分は全て微小量であるとして、一次の変分までの近似を求めると、
qi'(t')qi(t)+𝛿qi(t)
qi'(t+𝛿t) qi'(t)+dqi'
dt
𝛿t=qi(t)+𝛿Lqi(t)+d(qi+𝛿Lqi)
dt
𝛿t
qi(t)+𝛿Lqi(t)+dqi
dt
𝛿t
𝛿qi(t)=𝛿Lqi(t)+qi(t)𝛿t
以後、混乱を避けるため、 (上付きドット) は時間 t による微分のみに使うことにする。 作用積分として、C の時刻 [t1,t2] における作用積分 I と、C' の対応する時刻 [t'1, t'2] における I' を比較してみよう。
I=L(qi,qi,t)dt
I'=L(qi',dqi'
dt'
,t')dt'
I'-I が求めたいものだが、ちょっとした式変形が必要である。 I' について、t' t への変数変換を行うと、
dt'
dt
=1+d𝛿t
dt
t't'1=t1+𝛿t(t1)t'2=t2+𝛿t(t2)
tt1t2
を用いて、
I'=L(qi',dqi'
dt'
,t')dt'
dt
dt
=L(qi',dqi'
dt'
,t')(1+d𝛿t
dt
)dt
あとは L の変数を置き換えればよい。各項を求めておこう。dt'
dt
dt
dt'
=1 (1+d𝛿t
dt
)dt
dt'
=1
1 次までの近似で、(1+d𝛿t
dt
)(1-d𝛿t
dt
)=1
だから、dt
dt'
=1-d𝛿t
dt
こちらも 1 次までの近似で、
dqi'
dt'
=dt
dt'
dqi'
dt
(1-d𝛿t
dt
)d
dt
(qi(t)+𝛿Lqi(t)+dqi
dt
𝛿t)
qi+d
dt
(𝛿Lqi)+␒␒qi𝛿t+qi𝛿t-qi𝛿t
=qi+d
dt
(𝛿Lqi)+␒␒qi𝛿t
L(qi',dqi'
dt'
,t')
L(qi,qi,t) のまわりで展開してやると、
L(qi',dqi'
dt'
,t')
=L(qi+𝛿Lqi+dqi
dt
𝛿t, qi+d
dt
(𝛿Lqi)+␒␒qi𝛿t, t+𝛿t)
L(qi,qi,t)+ i{∂L
∂qi
(𝛿Lqi+dqi
dt
𝛿t)+∂L
qi
(d
dt
(𝛿Lqi)+␒␒qi𝛿t)}
+∂L
∂t
𝛿t
これで部品は出揃った。I'-I を求めよう。
I'-I=L(qi',dqi'
dt'
,t')(1+d𝛿t
dt
)-L(qi,qi,t) dt
i{∂L
∂qi
(𝛿Lqi+dqi
dt
𝛿t)+∂L
qi
(d
dt
(𝛿Lqi)+␒␒qi𝛿t)}+∂L
∂t
𝛿t+L d𝛿t
dt
dt
= i{∂L
∂qi
𝛿Lqi+∂L
qi
d
dt
(𝛿Lqi)}+dL
dt
𝛿t+L d𝛿t
dt
dt
= i[{∂L
∂qi
-d
dt
(∂L
qi
)}𝛿Lqi+d
dt
(∂L
qi
𝛿Lqi+L𝛿t) ]dt
2 行目から 3 行目は L の時間微分をまとめ、 3 行目から 4 行目は部分積分を行った。この式は、変分の 1 次までの近似で常に成り立つ。これを Noether の恒等式という。 作用積分 I I' の比較は次のセクションで行おう。いよいよ、 Noether の定理。
Noether の定理
Noether の恒等式をよく見てみると、第 1 項には見慣れた数式が含まれている。正しく、Lagrange 方程式と全く同じ形ではないか!従って、曲線 C を実際に実現される曲線とすると、第 1 項は消える。
I'-I= id
dt
(∂L
qi
𝛿Lqi+L𝛿t) dt
=[ i∂L
qi
𝛿Lqi+L𝛿t]t2t1
ここでもしも、任意の [t1,t2] について、I'-I=0 ならば、 i∂L
qi
𝛿Lqi+L𝛿t=const.
𝛿Lqi を元の変分 𝛿qiで表すと、 i∂L
qi
𝛿qi-(∂L
qi
qi-L)𝛿t=const.
「作用積分を不変とするような 𝛿qi,𝛿t の組に対して、Lagrange 方程式のもと、 一つ保存則が存在する。」 これを Noether の定理という。 一般には I'-I0 とならないだろう。むしろ、0 となる方が稀なように思える。また、あまりに高尚に過ぎて何を言っているのか、よく分からない、というのが正直なところで、この定理の使い方について、さらなる説明が必要だろう。 そのために、どのような場合にこれが成り立つのかを考えることにしよう。それは、系に何らかの対称性が見られる場合であり、それに対応した 𝛿qi, 𝛿t をうまく選んでやると、𝛿I=0 が実現され、一つ保存則が決まるよ、ということになる。 Lagrange 方程式を導出する際は、作用積分が停留値をとることを要求し、そのためには、変数の変分は任意にとれなければならなかったが、今回の場合は、「 (任意の)」ではなく、(ある)」変分の組に対して成立すればよい。 以下、具体例を挙げよう。
Noether の定理 :空間推進対称性と運動量保存則
N 粒子系の Lagrangian L L= i,j1
2
mi r2i+V(| ri-rj |)
と表されるとき、微小平行移動a
𝛿ri(t)=𝜖i
𝛿t(t)=0
を変分としてとったとき、 L は不変である。このことを、系は空間推進に対して対称性を持つ、という。したがって、微小平行移動 𝜖i について作用積分 I も不変だから I'-I=0 である。 このとき、 Noether の定理は、
i∂L
qi
𝛿qi
= i∂L
ri
𝜖i=const.
= imi ri𝜖i =const. for 𝜖i
imi ri=P=const.
全運動量は保存する。有限な大きさの平行移動は、無限小の平行移動の積み重ねで与えられるから、 「系が空間推進に対して対称性を持つとき、全運動量は保存する」。
Noether の定理 :空間回転対称性と角運動量保存則
同様に、N 粒子系の Lagrangian L= i,j1
2
mi r2i+V(| ri-rj |)
は、微小回転a
𝛿ri(t)=ri×e 𝛿𝜃
𝛿t(t)=0
を変分としてとったときも、不変である。このことを、系は空間回転に対して対称性を持つ、という。したがって、空間の微小回転 ri×e 𝛿𝜃 についても作用積分 I は不変だから I'-I=0 である。 このとき、 Noether の定理は、
i∂L
qi
𝛿qi
= i∂L
ri
ri×e 𝛿𝜃=const.
= i(∂L
ri
×ri)e 𝛿𝜃
=- i(ri×mi ri)e 𝛿𝜃 =const. for e 𝛿𝜃
i(ri×mi ri)= i(ri×pi)=const.
全角運動量は保存する。有限な大きさの回転は、無限小の回転の積み重ねで与えられるから、 「系が空間回転に対して対称性を持つとき、全角運動量は保存する」。 最後に時間推進の対称性について話そう。
Noether の定理 :時間推進対称性とエネルギー保存則
系の Lagrangian L が陽に時間 t を含まない時、微小な時間推進a
𝛿qi(t)=0
𝛿t(t)=𝜖
に対して、 L は不変である。このことを、系は時間推進に対して対称性を持つ、という。したがって、時間の微小移動 𝜖 について作用積分 I も不変だから I'-I=0 である。 このとき、 Noether の定理は、
-( i∂L
qi
qi-L)𝛿t
=-( i∂L
qi
qi-L)𝜖=const. for 𝜖
i∂L
qi
qi-L
= ipiqi-L=H=const.
まだ共役運動量 pi Hamiltonian H については説明していないが、 H はエネルギーに相当する量で、これが保存する。有限な大きさの時間推進は、無限小の時間推進の積み重ねで与えられるから、 「系が時間推進に対して対称性を持つとき、エネルギーは保存する」。 Noether の定理の使い方が分かっていただけただろうか?こうして、系が時空に関して対称性を持つと、それに応じて保存則が成り立つことが分かった。 自分の中で、この関係性は全く予想もしていなかったので、初めて出遭ったとき、本当にびっくりした。しかも、言わんとするところがよく分からなかった。その指し示す意味が「こういうことか!」と自分なりにつかめたと感じたときは心底、うれしかったものです。 Noether 女史カッコイイ。 そして、宇宙はエレガントである。 Lagrange 形式について、いくつか積み残したことがあるので、説明しておこう。

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