運動量保存則
━━ 第2 第3法則の合わせ技
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運動量と力積 ニュートンの第2法則を再掲すると、 2. 運動方程式 mdv
dt=F 物体の運動の変化(単位時間当たりの運動量の変化)は、その物体に及ぼされる外力に比例し、その力の方向におこる 運動量ベクトルを p=mv として、運動方程式中の mv を p で置き換え、 t で積分すると、 tE∫tSdp
dt dt = p(tE)-p(tS) =tE∫tSF dt 運動量の増し高は、力の時間積分に等しい。力の時間積分を力積という。 すなわち、 「運動量の増分は、力積に等しい」。 運動方程式が微分型、運動量と力積の関係式が積分型となり、両者は同等である。 二体間の相互作用/衝突:運動量保存則 物体 1,2 の相互作用/衝突を考えよう。それぞれに働く力は相手から受ける力のみで、外部から受ける力(外力)はないものとする。物体 1 の運動量を p1 、物体 2の運動量を p2 、物体 1 が 2 から受ける力を F1←2 、物体 2 が 1 から受ける力を F2←1 とする。それぞれの運動方程式を書くと、ニュートンの第3法則:作用反作用の法則から、F1←2=-F2←1 だから、両辺を加えると、d
dt( p1+p2 )=F1←2+F2←1 =0運動量の和は時間的に変化せず、一定となる。 積分型で書けば、相互作用/衝突前の時刻を tS、相互作用/衝突後の時刻を tE として、p1(tE)+p2(tE)=const. = p1(tS)+p2(tS)相互作用/衝突の前後で全運動量は保存される。 これを運動量保存則という。 考えている系がより多くの物体からなる場合も事情は同様である。系内にある、任意の二つの物体間に働く力(内力)は大きさが等しく向きが逆なので、系内の各物体に関する運動方程式の和をとると互いに打ち消しあって消えてしまう。よって、系に外力が作用しないとき、系の全運動量は保存する。 ニュートンの三法則の中で、作用反作用の法則は一見、付録のように思えるが、このように裏で大きな役割を果たしていた。 また、例えば地上の実験室のように、重力場や時には電場、磁場がある場合でも、相互作用/衝突の時間が短い場合は、相互作用中、二体間に働く力の方が他の外力よりも圧倒的に大きいので、外力の影響は無視でき、衝突の前後で運動量は保存するとしてよい(撃力近似)。 地上から投げ挙げた二つの物体が空中で衝突する場合を考えよう。衝突する前までは各々、放物線運動を行い、衝突の前後でその直前の運動量の和と、直後の運動量の和が等しくなるようにそれぞれの速度ベクトルが変化し、それを初期条件として、そこからまた放物運動をそれぞれが辿っていくことになる。
運動量保存則の幾何学的な特徴 運動量保存則の幾何学的な特徴は、速度空間に顕著に現れる。それをみるために、重心(質量中心)を定義しよう。物体 1,2 の質量を m1,m2 、位置ベクトルを r1,r2 として、各点の加重平均(各点をその点の質量で重みづけして、位置の平均を求めること)したものをその系の重心と定義する。ベクトルで表すと、重心の位置ベクトル rG は、 rG≡m1r1+m2r2
m1+m2 となる。rG=r1+m2
m1+m2(r2-r1)と変形してやれば、重心は物体 1,2 を結ぶ直線を m2:m1=1
m1:1
m2 、質量の逆比に分割することが分かる。図の通り、ニ粒子系では重心の位置には物理的実体は存在しない、幾何学的な点となる。r1rGr2m2
m1+m2(r2-r1)Om1m2m2:m1物体 1,2 の運動に伴い、重心の位置も時間的に変化していく。rG の時間微分をとることで、重心の速度ベクトル vG(t) は、 vG(t)≡d
dt(m1r1+m2r2
m1+m2) =m1v1(t)+m2v2(t)
m1+m2に従って時間的に変化するが、vG(t) の分子/分母の分子に着目すると、これは系の全運動量となっている。 従って、運動量保存則が成り立つ場合、すなわち系に外力が作用しないとき、重心の速度 vG は時間によらず、一定となる。重心は、衝突の前後によらず、等速度運動を続けることになる。 速度空間で、衝突前の速度をそれぞれ v1, v2 、衝突後を v'1, v'2 として図示すると、以下のような特徴を持つことが分かる。 v1v’1v2v’2m1:m2𝛥v2𝛥v1vGm1:m2vxvyvz運動量保存則が成り立つとき、・ vG は、 v1, v2 、v'1, v'2 の終点をそれぞれ結ぶ線分を、これも m2:m1 、質量の逆比に分割し、しかもその点は不動である。・𝛥v1, 𝛥v2 は物体 1,2 の運動量の変化、すなわち受けた力積に比例するベクトルなので、作用反作用の法則の帰結から、平行で、向きは逆を向く。・なお、 v1, v2 、v'1, v'2 の張る平面は必ずしも一致しないことに注意。衝突の前後で同一平面でなくても運動量保存則は成り立ちうる。ただし、どちらの平面も、vG で表される線分を含む。 速度空間で v'1 が与えられたとき、 v'2 を作図から決定するには以下のようにすればよい。1. v'1 の終点と、vG の終点を結ぶ線分を延長する2. 衝突前の v2 の終点から、𝛥v1 に平行な直線を引く3. 両者の交点を終点とする原点からのベクトルを v'2 とする。 このように運動量保存則から言えるのは、前後のトータルの運動量(重心の速度)が変わらないことであって、各運動量(個々の速度)については予言できない。あくまで衝突後の一方の運動量(速度)が決まれば、それに応じて他方が決まるにすぎない。 だからといって運動量保存則が大したことはないなどと考えてはならない。 逆に言えば、衝突の最中に二体間に働く力の詳細が不明でも、これだけの事が分かりますよ、ということである。個々に運動方程式を立てようとしても、衝突の際に働く力が分からなければ、そこから先に進むことはできない。むしろ、働く力が分かるのは、荷電粒子間の相互作用:クーロン力や惑星の軌道:太陽との万有引力など、ごく限られた場合であり、物体同士の接触を伴う物理的な衝突では衝突がごく短時間で、そこに働く力は測定不能、不明な場合の方が多い。そんな状況でも、全運動量は衝突の前後、さらにはd
dt( p1+p2 )=F1←2+F2←1 =0に戻ればp1(t)+p2(t)=const.となり、衝突の最中においても保存されることになる。これはちょっと驚くべきことではないだろうか。 実は、運動量保存則は後のセクションでも述べるように、電磁気学、さらにはニュートンの法則では適用範疇外となる、ミクロの世界:量子力学においてさえ成立する。その意味で運動量保存則は、より本質的な法則なのである。 本チャプターのまとめとして、微積物理 はじめに のチャートで、ここまで分かった部分を埋めてみよう。空欄はこの先、埋められていく。運動方程式運動量の時間的変化率は外力に等しいif: 外力が 0運動量保存則角運動量保存則力学的エネルギー保存則 二体間の衝突問題については、 Topics:はね返り係数 ━━ 運動量はいつでも保存する にて後ほど、さらに検討します。
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