電磁場中の荷電粒子
   ━━ ミニマルな相互作用


Lagrange 方程式の発見的変形
拘束条件無しの、電磁場中の荷電粒子について考えよう。電場 E 、磁場 B 中を運動する、質量 m 、電荷 q の粒子には Lorentz 力が働く。Newton の運動方程式はm␒␒r=q(E+r×B)で与えられる。これを変形し、Lagrange 方程式にもっていきたい。拘束条件無しなので、一般化座標 {qi}としてデカルト直交座標系 {xi} をとることができる。 電場、磁場はポテンシャル 𝜙(xi,t)、ベクトルポテンシャル A(xi,t) を用いて、
E=- 𝜙-A
∂t
B=×A
だから、m␒␒r=-q(𝜙+A
∂t
)+q r××A
電磁気学でおなじみの、ベクトル解析を利用して式変形を行っていこう。 なお、Lagrange 方程式の各成分をまとめてベクトルで記述した場合の目指すべき式の形は、=a
x1
x2
x3
, ∂L
r
=
a
x1
x2
x3
として、
d
dt
(∂L
r
)-L=0
となる(このように書いて問題ないことは少し後で検討する)。微分演算子 xi についての偏微分だから、 r=(xi) には作用しない(作用すると 0 になる)ので、 r を定ベクトルのように扱えることに注意して、 r××A=(rA)-(r)Aを用いると、
(右辺)=-q𝜙-q(A
∂t
+(r)A)+q(rA)
=d
dt
(-qA)-q(𝜙-rA)
=d
dt
{
r
q(𝜙-rA)}-q(𝜙-rA)
 同様に、
(左辺)=d
dt
mr
=d
dt
{
r
(1
2
mrr)}
=d
dt
{
r
(1
2
mrr)}-(1
2
mrr)
まとめると、 d
dt
{
r
(1
2
mrr-q(𝜙-rA))}-(1
2
mrr-q(𝜙-rA))=0
こうして、電磁場中の荷電粒子の Lagrange 方程式が得られた。Lagrangian LL=T-U=1
2
mrr-q(𝜙-rA)
で与えられる。 途中のdA
dt
=A
∂t
+(r)A
は、成分で書くと、 dAi(xj(t),t)
dt
=∂Ai
∂t
+dxj
dt
∂Ai
∂xj
となり、粒子の軌跡に沿った A の時間的変化で、それは A の同じ点における時間的変化と、粒子の移動による変化の和で表されることによる。 共役運動量は、その定義から、 Lagrange 方程式の d
dt
項の中身に等しいので、式変形の過程より、
p∂L
r
=mr+qA
となる。 続いて Hamiltonian HLegendre 変換で求めよう。こちらもベクトルを使って表すと、rp の変数変換p∂L
r
=mr+qA
のもと、電磁場中の荷電粒子の Hamiltonian は、
Hpr-L
=pr-1
2
mrr+q(𝜙-rA)
=pp-qA
m
-m
2
p-qA
m
p-qA
m
+q(𝜙-p-qA
m
A)
=(p-qA)2
2m
+q𝜙
で与えられる。 自由粒子の Hamiltonian H=p2
2m
と比較すると、
HH-q𝜙
pp-qA
と機械的に置き換えをしてやれば、電磁場中の荷電粒子の Hamiltonian が得られる。これを minimal な電磁相互作用という。 ちなみに Hamiltonian を変数 p でなく変数 r で表すと、H={(mr+qA)-qA}2
2m
+q𝜙=m
2
r2+q𝜙
となって、ベクトルポテンシャルの項が消え、運動エネルギーとポテンシャルだけになる。こちらの方が簡単に思えるが、H の変数はあくまで (r,p) であることに注意。 デカルト直交座標系における Hamilton 方程式が、a
r=∂H
p
p=-∂H
r
=- H
と、Hrp で偏微分する必要があることを思いだそう。 また、古典論の範囲を超えるが、正準量子化には mv 運動量ではなく、共役運動量 p -iℏ で置き換えて H を量子化してやる必要があることからも、H の変数は (r,p) であるべきであることが分かる。 まぁ、qA の前の符号が +- も出てくるので、式変形の正しさのチェックには使えるかもしれない。それから電荷を e として話を進めると、それが電気素量だったか、それとも電子の電荷だったかが途中で分からなくなってしまうので、電荷としては q を使うことをお勧めする。 最後に共役運動量をベクトル p として扱っているが、本来、1-form ではなかったのか、という疑問に答えておこう。デカルト座標系においては、基底 {ei} について、eiej=𝛿ijとなるので、自身が双対基底の条件eiej=𝛿ijを満たしており、したがって、ベクトルも 1-form も基底が一致するため、両者を同一視することができる。デカルト座標系にはベクトル解析という強力な道具があるので、共役運動量 p、さらにはベクトルポテンシャル A、電場 E 、磁場 B をベクトルとして計算を進めた。
余談:電磁気学と微分形式
こうなると、ベクトルポテンシャル A、電場 E 、磁場 B についても、その変換性が気になってくる。 変換の一例として、二つの慣性系が、互いに一定の速度差を持って運動している場合:Lorentz 変換を考えると、ここではあえて数式は示さないが、電場と磁場は混ざりあった変換をする。ということは変換性まで考慮すると、電場や磁場を、それぞれ独立にベクトルや 1-form とするのはふさわしくない。ポテンシャルとベクトルポテンシャルもまた違った形で混ざりあう。 解析力学の範疇を超えて、電磁気学と特殊相対性理論の話となるので、結論だけ、説明抜きで書いておくと、Minkowski 空間で 4 元の 1-form として、4 元ポテンシャルA=A𝜇(-𝜙,Ax,Ay,Az) 4 元電流J=J𝜇(-𝜌,Jx,Jy,Jx)を定義する。A の外微分 d をとることで、 2-form F=dAを作ると、要素に電場、磁場の各成分をそれぞれ単独で含んだ形となり、これを電磁場 2-form と呼ぶ。Lorentz 変換による座標変換も、2-form の変換に従うことを確かめることができる。その意味で、電場 E 、磁場 B は独立した物理的実体ではなく、電磁場 2-form という幾何学的対象として扱うのがふさわしい。 そしてなんと、4 つの式からなる Maxwell 方程式は、*Hodge 作用素としてd*dA=*Jと、たった一本の式で書き下されてしまう(簡単のため、c=1,𝜖=1,𝜇=1 としている)。 興味のある方は、微分幾何や電磁気学、相対論の教科書をあたってみてほしい。微分形式おそるべし。
Lagrange 方程式の各成分は 1-form であることの確認
Lagrange 方程式の各成分をまとめてd
dt
(∂L
r
)-L=0
とベクトルのように扱ったが、ベクトルや 1-form は物理的実体、幾何学的対象であるべきで、単に各成分を寄せ集めて形式的にまとめてみても、それはベクトルと呼べるものかどうか、定かではない。物理的実体であるためには座標変換によらないことが必要であった。 そこで、Lagrange 方程式の変換性を調べよう。 1-form の成分として変換することが分かる。デカルト座標系だけでなく、一般化座標で成り立つので、以下では {qi} に関する点変換qiQi (qj,t)を考える。逆変換Qiqi (Qj,t)もできるものとする。 そのためには、座標変換を写像として考えたとき、異なる 2 点は別の点にそれぞれ写像されなければならない。言い換えると、異なる 2 点が同じ点に写像されることはあってはならない。微小変位だけ隔てた2点にこれを要求すると、各成分の変位分𝛥Qk=∂Qk
∂qi
𝛥qi
において、(𝛥Qk,..)=(0,..) となるのは (𝛥qi,..)=(0,..) のみでなければならない。そのためには逆行列 ∂qj
∂Qk
が存在すること、すなわち、
det(∂Qk
∂qi
)0
が必要で、(𝛥Qk,..)=(0,..) のもと、逆行列 ∂qj
∂Qk
をかければ
0=∂qj
∂Qk
𝛥Qk
=∂qj
∂Qk
∂Qk
∂qi
𝛥qi=𝛿ji𝛥qi=𝛥qj
𝛥qj=0
となり、(𝛥Qk,..)=(0,..) (𝛥qi,..)=(0,..) が満たされることがわかる。 本題に進もう。(qi(t))(Qi(t)) は同じ時刻の同じ点を表すので、各 Lagrangian も同じ値となる。L'(Qi,Qi,t)=L'(Qi(qk,t),∂Qi
∂qk
qk+∂Qi
∂t
,t)L(qi,qi,t)
これを用いて、qi に関する Lagrange 方程式を Qi で書き直すことを試みよう。Qi=dQi(qj,t)
dt
=∂Qi
∂qk
qk+∂Qi
∂t
より、Qi
qk
=∂Qi
∂qk
に注意して、
d
dt
(∂L
qi
)
=d
dt
(∂L'
Qk
Qk
qi
)=d
dt
(∂L'
Qk
∂Qk
∂qi
)
=∂Qk
∂qi
d
dt
(∂L'
Qk
)+∂L'
Qk
d
dt
(∂Qk
∂qi
)
∂L
∂qi
=∂L'
∂Qk
∂Qk
∂qi
+∂L'
Qk
Qk
∂qi
ここで、それぞれの第二項について、
d
dt
(∂Qk
∂qi
)
=
∂qj
(∂Qk
∂qi
)qj+
∂t
(∂Qk
∂qi
)
=
∂qi
(∂Qk
∂qj
qj+∂Qk
∂t
)
=Qk
∂qi
となるので、 Lagrange 方程式は、d
dt
(∂L
qi
)-∂L
∂qi
=∂Qk
∂qi
{d
dt
(∂L'
Qk
)-∂L'
∂Qk
}=0
と変形できる。こうして、 Lagrange 方程式の各成分は、共変成分、 1-form の成分として変換することを示すことができた。 さらに、仮定からdet(∂Qk
∂qi
)0
が成り立つので、逆行列 ∂qi
∂Qj
をかけることにより、
d
dt
(∂L'
Qj
)-∂L'
∂Qj
=0
変換先でも Lagrange 方程式が成り立つ。 Lagrange 方程式の共変性と、点変換の条件もあわせて再確認できた。
Lagrangian の不定性と gauge 変換
Lagrangian の不定性により、 LG=L+dW(qi,t)
dt
と、関数の時間微分を加えたものでも、同じように Lagrange 方程式が成り立つので、荷電粒子のLagrangian L=T-U=1
2
mrr-q(𝜙-rA)
に対し、関数Wq𝜒(r,t)とすると、dW
dt
=q(r𝜒+∂𝜒
∂t
)
から、別の Lagrangian LG
LG=1
2
mrr-q{(𝜙-∂𝜒
∂t
)-r(A+𝜒)}
1
2
mrr-q(𝜙'-rA')
が得られる。これはa
𝜙'=𝜙-∂𝜒
∂t
A'=A+𝜒
のように電磁ポテンシャル、ベクトルポテンシャルを変換しても、電場、磁場は変わらないことに対応している(電磁場の gauge 変換)。 実際、電場、磁場と各ポテンシャルの定義から
E=- 𝜙'-A'
∂t
=- (𝜙-∂𝜒
∂t
)-A+𝜒
∂t
=- 𝜙-A
∂t
B=×A'=×(A+𝜒)=×A
が確認できる。第一式は空間と時間の偏微分は順序によらないこと、第二式は発散( grad )の回転( curl )は 0 となることによる。 物理学の別の分野である、電磁気学の gauge 変換と解析力学の Lagrangian の不定性がこのような形でつながっているのは興味深い。 ところで、別の Lagrangian LG
LG=1
2
mrr-q{(𝜙-∂𝜒
∂t
)-r(A+𝜒)}
1
2
mrr-q(𝜙'-rA')
に対し、 Legendre 変換を行うと、p'∂L'
r
=mr+qA'=mr+q(A+𝜒)
として、rp' の変数変換により、Hamiltonian は、
H'=(p'-qA')2
2m
+q𝜙'
={p'-q(A+𝜒)}2
2m
+q(𝜙-∂𝜒
∂t
)
となる。Lagrangian の不定性は一般化運動量、 Hamiltonian の不定性へとつながっていく。 変数 (r,p') のもと、この H' から作った Hamilton 方程式も、正しい解曲線を与えるが、見方を変えると、Hamilton 形式において、変数 (r,p) から (r,p') への変数変換を行ったと考えることもできる。 この不定性が Hamilton 形式の変数変換に大きな役割を果たし、Lagrange 形式における点変換よりも広い変数変換を可能とする。これを正準変換という。次はこの正準変換。

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