a ここまでの考え方ホロノーム系(束縛条件が全て、 g(x,y,z;t)=0 の形で表される場合)に話を限ると、原理的に束縛条件の数だけ自由度を減らした一般化座標で議論を進めることができ、そこでは各変数は独立であった(Lagrange形式 束縛条件と自由度 )。簡単な例として、球面振り子と円錐振り子を考えよう。なお、本チャプターでは拘束力の項が入ってくるので、Newton の運動方程式と符号を合わせる意味もあって、時間の 2 階微分の項が正となるよう、Lagrange 方程式の符号をこれまでとは逆にとっている。もともと、右辺は 0 だったから、混乱もないだろう。 例題:球面振り子と円錐振り子── 配位空間、一般化座標で質量 m のおもりに、長さ l の、おもりに比べて軽くて伸び縮みしない、剛体棒をつけて、球面振り子として運動させる。剛体棒による束縛条件は、質点 m の、 O からの距離が l 一定で、結果、質点 m は球面上を運動することになる。配位空間は半径 l の球面で、質点の自由度は、一つ減って 3-1=2。一般化座標としては、極座標 (r,𝜃,𝜑)のうち、(𝜃,𝜑)を採用する。
𝜃𝜑xyzl
運動エネルギーは、K=1
2m(l2␒𝜃2+ l2sin2𝜃 ␒𝜑2)位置 O を基準として、ポテンシャルエネルギーは、U=mglcos𝜃から、L=K-U=1
2m(l2␒𝜃2+ l2sin2𝜃 ␒𝜑2)-mglcos𝜃 質点 m の従うべき Lagrange 方程式は以下となる。
lcos𝛼おや?ポテンシャルエネルギーとして考慮されたのは重力 mg 起因のものだけである。Newton の運動方程式では剛体棒からの張力が式中に出てきたが、Lagrange 形式では考える必要はないのだろうか?その通り。必要ない。棒の張力は、棒の長さが変らないように、言い換えると、束縛条件が破られないように働くもので、これを拘束力という。一般化座標、すなわち配位空間で Lagrange 方程式を考える場合、Lagrangian を書き下した時点で、ホロノーム系の束縛条件はすでに取り込み済みとなるため、個々に働く拘束力は考慮する必要がない。従って、式中にも出てこない。また、定義から、配位空間内の任意の点は束縛条件を満たすので、配位空間内でどのような軌跡をとってみても、束縛条件については破られることはない。そもそも拘束力は、棒や斜面など、アボガドロ数個の原子と対象(のこれまたアボガドロ数個の原子)との間でやり取りされる力の総和で、その大きさを計算することは不可能である。そのため、Newton 力学では、運動方程式を原理として認め、方程式が正しいとする前提で、運動方程式と拘束条件を連立させ、まずは拘束力を消去して軌跡を求めた後、今度はその運動方程式を用いて拘束力を逆算していた。その点、Lagrange 形式では拘束力以外の、重力場や電磁場など、外部から働く力だけを考慮すればよいので、すっきりしていて、理論としても優れていると思う。しかし、時には剛体棒が壊れないためには、どれくらいの力に耐えられればよいのか、働く張力の大きさを知りたい場合もあるだろう。また、原点と質点を結ぶものが剛体棒ではなく、糸だった場合、張力は原点に向かう方向にしか取れないので(式の上で張力が原点から遠ざかる方向になる場合は、現実には糸がたわんで実現されない)、ホロノーム系にさらに制約がつくことになる。本チャプターではホロノーム系に限って、そのあたりを少し調べてみよう。 拘束力 ── R3Nの座標系で N 個の粒子系を考える。各質点の位置を表すため、R3N空間を用意し、その座標成分を(x1,...,x3N) とし、系の Lagrangian L を、各座標成分とその時間微分を用いて、L=L(xi,␒xi;t); i=1,...,3Nと書き下しておく。この時、束縛条件なしとして運動エネルギー T を、ポテンシャルエネルギー U は外部から働く、既知の力を与えるものだけとして、その差 T-U を L とすればよい。例えば斜面に沿った運動では、斜面に垂直方向の運動はないが、運動エネルギーとして、垂直方向の成分も「何も考えずに」加えておけばよく、ポテンシャルエネルギーは重力ポテンシャルだけを考えればよい。 L は全R3N空間(もしくは全R3N×R3N空間)で定義されている。与えられた束縛条件を、f(xi,x3N;t)=0 ; i=1,...,3N-1とする。束縛条件には少なくとも一つの座標成分が含まれるから、x3Nが含まれるものとしてよい。そして、この式は原理的に x3Nについて解くことができる。x3N=𝜑(xi,t); i=1,...,3N-1一般化座標、配位空間として、(q1,...,q3N-1)≡(x1,...,x3N-1)を採用しよう。1 粒子、3 次元で、束縛条件が時間によらない場合の例を図に示す。(q1,q2)は、束縛条件 f(x,y,z)=0 を満たす曲面上にとられた座標系となっていることに注意。束縛条件を満たす経路は配位空間上の軌跡となる。
配位空間 Q q1q2経路 C xyzf(x,y,z)=0
L も(q1,...,q3N-1) で書き直すと、L(xi,␒xi,x3N,␒x3N;t)⇒L(xi,␒xi,𝜑(xi,t),␒𝜑(xi,t);t)≡L(q1,...,q3N-1,␒q1,...,␒q3N-1;t); i=1,...,3N-1この時点で L の定義域は束縛条件を満たす空間、すなわち配位空間に限定される。{q1,...,q3N-1}は独立だから、I≡∫L(qi,␒qi;t)dt ; i=1,...,3N-1の停留値を与える軌跡は、 Euler-Lagrange 方程式で与えられる。d
で与えられる。例題として、先ほどの球面振り子と円錐振り子を考えてみよう。 例題:球面振り子と円錐振り子── R3Nの座標系で設定は一般化座標の例題と同一とする。質量 m のおもりに、長さ l の、おもりに比べて軽くて伸び縮みしない、剛体棒をつけて、球面振り子として運動させる。剛体棒による束縛条件は、質点 m の、 O からの距離が l 一定で、結果、質点 m は球面上を運動することになる。質点の位置を指定するのに、極座標 (r,𝜃,𝜑)を用いる。