Hamilton(ハミルトン)形式
   ━━ 馴染みのある特性関数


Hamilton 方程式
それぞれの変数空間がどのようなものであるか、添え字の上下は何を意味するのかはさておき、変数空間 (qi,qi,t),特性関数 L から、変数空間 (qi,pi,t),特性関数 H への Legendre 変換を行ってみよう。ここでも Einstein の規約(同じ添え字が上下に出現した場合は、その添え字について和を取る)を用いることにする。 L(qi,qi,t) の全微分は、dL=∂L
∂qi
dqi+∂L
qi
dqi+∂L
∂t
dt
となるので、新変数 pi pi∂L
qi
として、 (qi,pi,t) での特性関数 H Hqipi-Lと定義してやる。 H (qi,pi,t) の関数であることを確認しておこう。
dH=qidpi+pidqi-∂L
qi
dqi-∂L
∂qi
dqi-∂L
∂t
dt
=-∂L
∂qi
dqi+qidpi-∂L
∂t
dt
∂H
∂qi
dqi+∂H
∂pi
dpi+∂H
∂t
dt
これから直ちに
qi=∂H
∂pi
∂H
∂t
=-∂L
∂t
が言える。 解曲線 qi(t) は、元の空間 (qi,qi,t) において、 L についての Lagrange 方程式a
∂L
∂qi
-d
dt
(∂L
qi
)=0
qi=dqi
dt
を満たすことが要請されていた。あえて 2 行目を書いたのは、 L (qi,qi,t) 空間全体で定義される、いわば場のようなものだということを強調したかったから。 解曲線 qi(t) の、変換先の空間 (qi,pi,t) で満たすべき方程式を求めよう。 H の全微分と、新変数 pi の定義から、
d
dt
(∂L
qi
)
=∂L
∂qi
=-∂H
∂qi
pi=-∂H
∂qi
以上から、解曲線 qi(t) の、変換先の空間 (qi,pi,t) で満たすべき方程式はa
qi=∂H
∂pi
pi=-∂H
∂qi
となる。これを Hamilton 方程式といい、H Hamiltonianpi を( qi の)共役運動量という。式中、qipi がセットで現れてくる事から「共役」(「役」は本来、対を表す「軛(くびき)」)を冠し、pi を運動量とみなしてよい理由としては、 ・デカルト座標系でポテンシャルに速度が含まれない場合、通常の mv 運動量に一致すること L が、ある座標 qk を含まない、循環座標となっているならば、
d
dt
(∂L
qk
)
=∂L
∂qk
=0
dpk
dt
=0
となり、対応する pk は時間的に変化せず、保存量となる。この場合、mv 運動量よりも、こちらの方が物理的に注目すべき量となること Noether の定理:系が空間推進に対して対称性を持つとき、全運動量は保存するが、その保存する量も、共役運動量 p であること ・正準量子化には mv 運動量ではなく、共役運動量 p -iℏ で置き換えて H を量子化してやる必要があること を挙げておこう。 共役運動量と mv 運動量が一致しない具体例として、電磁場中の荷電粒子を別のチャプターで検討する。 本来、 Lagrange 方程式は、解曲線 qi(t) が元の空間 (qi,qi ;t) において、 L についての時間積分の停留値を取ることを要請した結果だった。この最小作用の原理が、変換先の空間 (qi,pi ;t) でどのように表現されるかは、興味深いトピックではあるが、少し注意が必要なので、こちらもチャプターを改めて説明することとする。 Lagrange 形式の例題として取り上げた、U字管を、Hamilton 形式でやってみよう。比較のために Lagrange 形式でのやり方も再掲する。
Hamilton 形式の例題:一様な太さのU字管内の液体の運動
Lagrange 形式では、U字管内の液体の運動を以下のように扱った。液体の全質量 M, 単位長さあたりの質量を 𝜇 とし、液体は粘性無し、管との摩擦は無視できるものとする。 座標系としては、管右側液面の、つり合いの位置からの変位 q を採用する。各点の管に沿った方向の速度は q だから、運動エネルギー Tは、T=1
2
Mq2
ポテンシャル・エネルギー U は、つり合いの位置を基準点としてU=𝜇gq2となる(菅の左側つり合いの位置からの欠損部の質量 𝜇q が右側に移動したとして、垂直方向への移動距離は q だから)。
Lagrangian L は、L=T-U=1
2
Mq2-𝜇gq2
Lagrange 方程式は
∂L
∂q
-d
dt
(∂L
q
)
=-2𝜇gq-d
dt
(Mq )=0
M␒␒q=-2𝜇gq
ここまでが復習。 ここからがHamilton 形式としての例題。 L q から p Legendre 変換を行う。p∂L
q
=Mq
対応する H は、
H=pq-L=p2
M
-(p2
2M
-𝜇gq2)
=p2
2M
+𝜇gq2
Hamilton 方程式はa
q=∂H
∂p
=p
M
p=-∂H
∂q
=-2𝜇gq
これからa
M␒␒q=-2𝜇gq
H の形をよく見てみると、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和、すなわち系の全エネルギーになっているではないか!保存系に限るのかもしれないが、H を全エネルギーで表しておいて Hamilton 方程式を立てればよいのなら、謎の量 L を用いる Lagrange 形式よりも受け入れやすい気がする。次のセクションでこれを調べよう。
Hamiltonian が陽に時間 t を含まない場合
L が陽に時間 t を含まない時、 Legendre 変換の結果である H も時間 t を陽に含まないが、それ以上に興味深い特徴がある。 H(qi,pi,t) の時間微分を考えると、dH
dt
=∂H
∂qi
qi+∂H
∂pi
pi+∂H
∂t
我々が興味があるのは、現実に実現される曲線 C における H の振る舞いなので、考える経路を解曲線 qi(t) に限ると、Hamilton 方程式から、
dH
dt
aC
=∂H
∂qi
∂H
∂pi
+∂H
∂pi
(-∂H
∂qi
)+∂H
∂t
=∂H
∂t
H t を陽に含まない場合、dH
dt
aC=0 i.e.H=Const. on C
よって解曲線に沿った移動に関して、 H は時間によらない、保存量となる。 U字管の例でみたように、L=T-U T が系の運動エネルギーを表している場合、H は系の全エネルギーを表す。 これもこの先、正準変換にからめて説明するが、L の選び方には任意性があるため、必ずしもH は系の全エネルギーを表すとは限らない。しかしながら、量子力学で重要な役割を果たすHamilton 演算子は系の全エネルギーを表す Hamiltonian を量子化したものである。基本的に、H として系の全エネルギーを表すものを採用することにすればよいだろう。 わずか数行の説明では、H のこの「興味深い特徴」が伝わらないといけないので、少々泥臭くなるが、同じことを元の (qi,qi,t) 空間で行っておこう。
dH
dt
=d
dt
(qipi-L(qi,qi,t))
=qipi+␒␒qipi-qi∂L
∂qi
-␒␒qi∂L
qi
-∂L
∂t
=qi(pi-∂L
∂qi
)+␒␒qi(pi-∂L
qi
)-∂L
∂t
=qi(d
dt
∂L
qi
-∂L
∂qi
)-∂L
∂t
3 行目から 4 行目は pi の定義を用いた。よって、経路 C を解曲線 qi(t) に限ると、 Lagrange 方程式から、dH
dt
aC=-∂L
∂t
L が陽に時間 t を含まない場合、dH
dt
aC=0 i.e.H=Const. on C
解曲線に沿った移動に関して、 H は時間によらない、保存量となる。 Lagrange 形式では、 L ではなく、H に相当する qipi-L に「興味深い特徴」があることがお分かりいただけただろうか。 あとは添え字の上下について、簡単に説明しておこう。
添え字の位置 / 各形式の舞台について  ── ミニマルな説明 
これまで、添え字の上下について特に説明はせず、Einstein の規約を使う上で便利だからと、qi , pi と添え字の位置を書き分けてきたが、実はそれには相応の理由があり、添え字の位置を逆にするわけにはいかなかった。その理由を説明しよう。 前提として、速度、運動量は物理的実体、幾何学的対象であるべきなので、どの座標系からみても、基底コミで考えたとき、全体としては変らない、不変であることが要求される(変換に応じて変化するのは、各成分である)。 そのため、 qi , pi 各成分の(点変換に対する)変換性を調べよう。配位空間 Q における変換 {qi} {qi'(..qj..)} を考える(これを点変換という)。 速度配位空間 (qi,qi) において、 qi の変換は、どう考えたらよいだろうか?速度配位空間では、qi qi は、互いに独立として扱うのではなかったか? 繰り返しとなるが、変換とは、つまるところ、先ず、物理的実体として、配位空間に軌跡があり、それを速度配位空間の、ある座標系でみたとき、その座標成分 (qi,qi) はこれこれ、こうなるが、他の座標系からみたらどうなりますか?ということである。 そこで、試行曲線も含めて、任意の qi(t) を速度配位空間 (qi,qi) で考えると、その軌跡 C (qi(t),qi (t)) は、qi (t)=dqi
dt
を満たす曲線となる。この軌跡 C の各成分がどのように変換を受けるかを考えることとする。
qi'(t)dqi'
dt
=∂qi'
∂qj
dqj
dt
=∂qi'
∂qj
qj(t)
となる。よって qi の変換は、qi'=∂qi'
∂qj
qj
で与えられることになる。 このことは、 qi がベクトルの反変成分として変換することを示している(この変換性が反変成分の定義そのもの)。慣例として、反変成分の添え字は上につけ、対応する反変基底の添え字は下につける。 速度が物理的実体、幾何学的対象であるためには、 Q 上の任意の点 A における接空間を TAQ として、 qi TAQ 上のベクトルの成分であることを要請すればよい。基底 { eiaA }{
∂qi
aA}
コミで、
qi'
∂qi'
aA
=(∂qi'
∂qj
qj) (∂qk
∂qi'
∂qk
aA)=∂qi'
∂qj
∂qk
∂qi'
qj
∂qk
aA
=𝛿kj qj
∂qk
aA=qj
∂qj
aA
となり、確かに速度ベクトルは、座標系によらない、物理的実体、幾何学的対象である事が確認できた。 Q 上の全ての点について、同じことが言えるので、座標成分が (qi,qi) で与えられる速度配位空間は、 Q 上の全ての点における接空間の、あらゆるベクトルによって張られる空間、すなわち、接空間の直和TQ TAQ に等しいことが分かる。これを接バンドルという。 系の自由度が 2 、つまり配位空間が 2 次元の場合の図を示そう。速度ベクトルは経路の接線方向を向く。 L(qi,qi,t) の全微分をとった際、 dt の項についても考慮したから、t をパラメータではなく、独立変数として扱っていることになる。よって本章で考えている、(qi,qi,t) の属する空間は、TQ ではなく、TQR となる。この空間は、拡張速度配位空間などと呼ばれている。 他方、(qi,pi) (相空間という)において、pi の変換性を同じように調べよう。配位空間 Q における点変換 {qi} {qi'(..qj..)} に伴う pi pi' を考える。
pi'∂L(qj,qj,t)
qi'
=∂L
qj
qj
qi'
+∂L
∂qj
∂qj
qi'
+∂L
∂t
∂t
qi'
=∂L
qj
qj
qi'
=qj
qi'
pj
2 行目は、qj(..qi'..),tqi' を変数として含まない、独立であることによる。また、qj(..qi'..qi'.. )=∂qj(..qi'.. )
∂qi'
qi'
から、右辺の第一項は qi' を含まないことに注意して、 qj
qi'
=∂qj
∂qi'
よってpi'=∂qj
∂qi'
pj
先ほどの qi の変換性と比較すると、 ` (ダッシュ)の位置が入れ替わっていることが分かる。このことは、pi が共変成分として変換することを示している(この変換性が共変成分の定義そのもの)。慣例として共変成分は添え字を下につけ、対応する共変基底は添え字を上につける。 運動量が物理的実体、幾何学的対象であるためには、 Q 上の任意の点 A における余接空間を T*AQ として、pi T*AQ 上の微分 1 形式、 1-form の成分であることを要請すればよい。 基底 { eiaA }{ dqiaA } コミで、
pi' dqi'aA=(∂qj
∂qi'
pj) (∂qi'
∂qk
dqkaA)=(∂qj
∂qi'
∂qi'
∂qk
) pj dqkaA
=𝛿jk pj dqkaA=pj dqjaA
となり、確かに運動量 1-form は、座標系によらない、物理的実体、幾何学的対象である事が確認できた。 Q 上の全ての点について、同じことが言えるので、座標成分が (qi,pi) で与えられる相空間は、 Q 上の全ての点における余接空間の、あらゆる 1-form によって張られる空間、すなわち、余接空間の直和T*Q T*AQ に等しいことが分かる。これを余接バンドルという。 系の自由度が 2 、つまり配位空間が 2 次元の場合の図を示そう。便宜上、ここでは 1-form を矢印で表すことにするが、運動量 1-form は必ずしも経路の接線方向を向くとは限らない。 H(qi,pi,t) の全微分をとった際、 dt の項についても考慮したから、t をパラメータではなく、独立変数として扱っていることになる。よって本章で考えている、(qi,pi,t) の属する空間は、T*Q ではなく、T*QR となる。この空間は、拡張相空間などと呼ばれている。 このように、速度、運動量の成分が、物理的実体のそれであるためには、それぞれ、接空間および余接空間のベクトル、 1-form の成分である必要があり、そのことを添え字の上下で表していたことが分かる。用いる基底を逆にすると、基底コミの全体が、座標系に依存して変化してしまうから、添え字の上下を逆にするわけにはいかなかったのである。 あとはいきなり出てきた、基底  {
∂qi
},
{dqi} についてだが、
解析力学から離れ、微分幾何の話題になってしまうので、一旦ここまでにしようと思う。 なお、接空間と余接空間、接バンドルと余接バンドルは互いに双対の関係にある。双対空間、双対基底の概念はとても美しく、面白いのだが、話し出すとかなり長くなってしまいそうなので、いつか相対論への入門編で説明したいと思う。 次は、話の途中で後にまわした、Hamilton 形式における、最小作用の原理。少し注意が必要と書いた理由もあわせて。

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