と、共通の Fermi 準位 EF を用いて与えられる。実は Fermi 準位とは電気化学ポテンシャルのことであると分かったのは大学院に進んでからのこと。その違いを、pn 接合と、高低差のある気体の例との比較を交えながら説明します。バンド図についても、熱力学の流儀に基づくものと、電子物性の流儀に基づくものでは微妙な差があり、この違いを明らかにすることも、この記事の目標の一つです。 熱力学の公理外部から熱的、粒子的に孤立した系は十分時間が経てばマクロに見て、状態が変化しない熱平衡状態に到達する。言葉の定義単純系:内部にピストンや仕切り板など、熱や粒子の流れを制限するものがなく、熱平衡時にはマクロにみて均一とみなせる系のこと。任意の系は単純系に分割できる。存在の仮定単純系の平衡状態それぞれに一意的に値が定まる量 エントロピー S が存在し、自然な独立変数として、内部エネルギー U 、体積 V 、粒子数 N の関数として表される。S(U,V,N)これを熱力学の基本関係式と呼ぶ。S は U に関して単調増加関数で、 U について逆に解けるものとする。U(S,V,N)また、 S,U,V,N 等、ある平衡状態に対して一意に決まる量のことを状態量と言う。状態量はその平衡状態へと至る履歴・経路によらず、その平衡状態だけで決まる。外部から熱的、粒子的に孤立した系(複合系も含む)の平衡条件は、エントロピー最大の原理を満たす。
エントロピー最大の原理:複合系の平衡条件単純系を組み合わせた複合系は、課せられた束縛条件の元、全ての単純系が平衡状態で、S=∑iSi(Ui,Vi,Ni)が最大となるとき、かつその場合に限り、平衡状態にある。その時の複合系のエントロピーは S の最大値に等しい
味も素っ気もないが、この公理から熱力学の様々な定理が導き出されることになる。束縛条件の具体例は 化学ポテンシャルは一致する や 電気化学ポテンシャルは一致する のセクションで説明する。先ずはここで定義したエントロピー S と、熱力学に登場する他の状態量、温度 T 、圧力 P 、化学ポテンシャル 𝜇 の関係を調べよう。 エントロピーと状態量の関係ある平衡状態から別の平衡状態への準静的な遷移を考える。(U,V,N) の各値に応じて平衡状態のエントロピー S が定まるので、S-U,V,N 空間で考えると S(U,V,N) は超曲面となる。逆に言えば、超曲面 S(U,V,N) 上の各点は、全て(各値に対応する)平衡状態ということになる。従って、超曲面 S について、 S 上の経路、微小変位や微分形式を考える場合、ある平衡状態から別の平衡状態まで、常に平衡状態を経由しての遷移となり、準静的過程のみを考えればよい。ある平衡状態から非準静的過程、つまり非平衡状態を経て(十分な時間の経過後に)別の平衡状態へと遷移した場合の経路は、この S-U,V,N 空間には存在せず、この空間から一旦はみ出すことになる。S の微分形式は、dS=(∂S
外部ポテンシャルが静電場ではなく、一般の場合にも、化学ポテンシャルに外部ポテンシャルを加えたものは電気化学ポテンシャルと呼ばれている。例題として、重力ポテンシャルが存在する場合を挙げよう。電子物性における Fermi 準位の扱いとの違いが明らかになる。 例:高低差のある場合の理想気体 ━━ 電子物性との違い外場がある場合の例として、系 1 が系 2 よりも高さ h だけ上にあって、両者を熱的、粒子的に接触させた場合を考える。U1U2V1V2N1N2ΔUΔN系 S1系 S2h断熱・断粒子壁粒子 1 個の質量を m, 重力加速度を g として、エネルギー保存則と粒子数保存
Et
=U1+mghN1+U2=Const.
Nt
=N1+N2=Const
から、同じ考え方をたどって、a
T1
=T2
⏨⏨𝜇1
=⏨⏨𝜇2
化学ポテンシャルについては𝜇1+mgh=𝜇2化学ポテンシャル 𝜇i の違いは各系の粒子数 Ni , 粒子密度 ni の違いとなって現れてくる。ここで粒子を理想気体とした場合の、𝜇 と n の関係式を求めておこう。理想気体のエントロピー ── 熱力学からの導出 を参照して、理想気体のエントロピーは S(U,V,N)=N
となって、どちらもこの記事の冒頭の np, nn の式と一致していることが分かる。そして n 型半導体側を基準として、電子 1 個当たりの全エネルギー Et/N を縦軸に取ったバンド図を描くと、p 型半導体eVbiECpEVp𝜇n=⏨𝜇𝜇p⏨𝜇Et/Nn 型半導体VbiECnEVnp 型半導体側がポテンシャル分だけかさ上げされて、見慣れた図が得られることになる。電子物性におけるバンド図は、電子 1 個当たりの内部エネルギーではなく、 1 個当たりの全エネルギーを縦軸にとって描かれたものであり、化学ポテンシャルも外部ポテンシャル分だけゲタをはかせることになる。即ち、それは電気化学ポテンシャルに他ならない。この描像においては、外部ポテンシャルに応じて変化する EC, EV と p 型 n 型によらず平衡状態では一定の ⏨𝜇 との差によって電子密度も正しく求まる。そして ⏨𝜇 のことを「Fermi 準位」と呼び EF で表す。
結論:Fermi 準位は電気化学ポテンシャルである。
電子工学の講義では、「化学ポテンシャルは場所によらずに一定だから、熱平衡時は pn 接合の両側でそれは一致する」ではなく、「電気化学ポテンシャルは場所によらずに一定だから、熱平衡時は pn 接合の両側でそれは一致する」と説明されるべきであった。pn 接合今度は p 型半導体、n 型半導体を直接、接触させる場合を考える。ここでも事前に熱浴に接触させて温度は T でそろえておくことにする。サイズはマクロな大きさで、それぞれ、接合から十分に離れた場所の電子・正孔密度は接触前と変わらないと仮定しよう。即ち遠方での化学ポテンシャルはそれぞれ 𝜇p, 𝜇n のままである。サイズの検討は最後に行う。接触前は p 型ではイオン化したアクセプター(と少数キャリアの電子)と、正孔の密度は等しく、 n 型ではイオン化したドナー(と少数キャリアの正孔)と、電子の密度は等しく、ともに各点で電気的に中性を保っている。p 型と n 型を接触させると、p 側から正孔が n 側へ、n 側から電子が p 側へと拡散していき、それぞれ拡散した先で多数キャリアと再結合して消滅する。イオン化したアクセプター、ドナーは固定電荷であるため、接合面をはさんで電荷がむき出しの電気 2 重層ができる。電場の向きは n 側から p 側となり、電位は n 側が高く、従って、電子に対するポテンシャルは p 側が高くなる。この電気 2 重層が先ほどの電池の役割を担い、やがて平衡状態に達し、接合から十分に離れた場所の電子・正孔密度は接触前と変わらない状態となる。この電位差を拡散電位 もしくは造り付け電位 built in potential Vbi と呼ぶ。図のように x 軸をとり、接合の位置を原点 x=0 とする。先ほどの電池の例とは逆になるが、静電ポテンシャル 𝜑(x) が正(か 0 )の値を取るように、x=-∞ を基準点 𝜑(-∞)=0 とする。p 型半導体n 型半導体x0中性領域中性領域電気 2 重層温度は常温で、アクせプター、ドナーともに全てイオン化しているものとし、密度を NA,ND とする。接合から十分遠方のバルク領域における正孔、電子密度は、a