から、理想気体のエントロピー SA≡S(U,V,N)をU,V,N と、定数 U0,V0,N0,S0で表すことが目標となる。前述のとおり、𝜇 の導出はとてもできそうもないので、先ずは N 一定の場合を考えよう。粒子の出入りの無い、閉じた系におけるエントロピーの変化を考えることに相当する。dN=0 だから、状態方程式、エネルギーの関係式を使って、
dS≡d'q
T
=1
T dU+P
T dV
=cRN dU
U+NRdV
V
となる。N 一定の状態空間において、仮の基準点を O'(U0',V0',N)、対象の点を A(U,V,N)とする。状態空間上で表現される経路はどれも、準静的過程となることに注意。また、状態量 S の変化は始点と終点だけで定まり、経路にはよらないので、図のような経路をとってやる。
UVO'AIIIN 一定
2 点間のエントロピーの差は簡単に計算できて、
SA-S0'
=∫IdS+∫IIdS
=U∫U0'cRN dU
U+V∫V0'NRdV
V
=cRN lnU
U0'+RN lnV
V0'
=RN ln[(U
U0')c(V
V0')]
となる。次に行うべきは、仮の基準点 O' と、本来の基準点 O のエントロピーの関係を知ることだが、さて、どうするか?言い換えれば、 O' をどう選んでやればいいかということでもある。それには S の斉次性を使う。斉次性とは、ひらたく言えば、同じ状態の系を合わせれば、U も V も N も 2 倍になり、そしてエントロピー S も 2 倍になる、ということ。これを 𝜆 個の同じ状態の系を用意した場合で考えれば、S(𝜆U0,𝜆V0,𝜆N0)=𝜆S(U0,V0,N0)となるので、特に 𝜆=N
N0V0,N) としてやれば、仮の基準点 O' と、本来の基準点 O のエントロピーの関係が求められたことになる。これでけりがついた。状態空間における経路が分かりやすくなるように、同じことをエントロピー密度を使って説明しよう。状態 O(U0,V0,N0)の 1 モルあたりのエントロピー:エントロピー密度は、
N0V0,N) を改めて O'(U0',V0',N)として採用すると考えればよい。状態空間で考えると、O' は原点から状態 O を通る直線と、N 一定の平面との交点となる。O'O ANVUIII改めて、 O' と、 O のエントロピーの関係を書いておくと、S0'=N
N0S0である。こうして、仮の基準点と、本来の基準点における、エントロピーの関係が定まった。あとは式の中の O' についての項を O の項で書き直せばよい。SA も S と書き直して、
S-N
N0S0
=RN ln[(U
U0')c(V
V0')]
=RN ln[(U
U0N0
N)c(V
V0N0
N)]
=RN ln[(U
U0)c(V
V0)(N0
N)c+1]
S の斉次性と、N 一定面上の、 2 点間のエントロピーの差を考えることで、理想気体のエントロピーが、状態方程式とエネルギーの関係式から導出されることが示すことができた。
結論:自由度から決まる定数 c は実験から決めねばならないが、状態方程式とエネルギーの関係式から、理想気体のエントロピーは求めることができる。
数学のお膳立てをもとに、統計力学を使って、バリバリ 状態数を計算していけば、同様の結果が得られるが、熱力学は(道筋さえ見えれば)ほんの数行の計算で事足りる。熱力学にはどこか、合気道かなにかの達人が、屈強な相手を指先一本で制するような、そんな不思議なカッコよさがある。と、思わない?追記:清水先生の本に導出方法が書かれていない理由ここでは高校時代から馴染みのある、理想気体の状態方程式と内部エネルギーからエントロピーを導いたが、実は暗黙の裡に、状態方程式に含まれる T と、エントロピーの偏微分で出てくる温度∂S
∂U≡1
Tをどちらも同じ T として同一視して扱っていた。理想気体の状態方程式と内部エネルギーに現れる温度を理想気体温度 Tideal,エントロピーから定義される温度を熱力学的温度 Tthermo として明示的に区別してエントロピーの全微分から T,P を消去した箇所を再掲すると、