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熱力学の基礎 清水明
━━ この教科書がすごい
a
熱力学 ── これまでの自分の理解は、「木を見て森を見ず」。
熱力学はサイクルの話から始まって、エントロピー、ヘルムホルツの自由エネルギー、ギブスの自由エネルギー、エンタルピーなど、後から後から熱力学的関数が出てきて、しかもエントロピーの定義に不等号が入っていたりして、よく分からん、というのが率直な感想だった。
一応、熱力学の第一、第二、第三法則が話の途中で原理として出てくるのだが、力学から感じた、あの、ごく少数の原理からすべてが構築されるような美しさやその関係性が、熱力学からは感じられず、講義と試験が終わったら、それっきりになっていた。
本書では、
・どんな系も、孤立させて十分長い時間が経てば、平衡状態に達すること
・平衡状態にはエントロピーなる量が状態量として存在すること
・複数の単純系からなる複合系のエントロピーは、与えられた条件の下、
個々の単純系のエントロピーの和を最大とする、その値となること
などごく少数の仮定を原理として認めることで、エントロピーの自然な変数に対する凸性を導き、エントロピーの具体的な形は求めないままに、熱力学が展開されていく。
その様は壮観で、ページを繰るごとに「へー、な~る~ほ~ど~!」と唸らされる。
一章、二章は共通の言語を使うための準備なので、まるで手順書を読んでいるような気がしてくるが、ざっと目を通しておいて、後で必要になったときに立ち返って確認すればよいだろう。また、この本の流儀も最初に説明されるが、一通り読んだ後の方が、より腑に落ちると思う。
三章で原理としてエントロピーを述べる。本書では原理に「要請」という言葉が用いられている。
四章でエントロピーの凸性が原理から導出され、ここから怒涛の面白さで熱力学が展開していく。
十一章のルジャンドル変換は、これまで出会った中で一番詳細に説明され、また、イメージも掴みやすい。
大学時代、この教科書で習いたかった。
示される内容が最終的には同じでも、どのような切り口で自然を観るかによって、自ずと理解の深さに違いが出てくるのは当然であろう。諸現象の背後にある、法則を探究することこそが物理だと思っているので、この本のスタイルには大変、惹かれるものがある。
本書には熱力学の美しい理論体系が余すところなく示されており、自分の中では、他の分野の教科書と比較しても、一、二を争う名著である。
ただし、原理として、「初めにエントロピーありき」で議論を進めるので、エントロピーとは何か?という素朴な疑問に対しては、読み進めても、なかなか応えてくれないかもしれない。まさに本書でも「エントロピーとは何か?」というタイトルで一節が設けられているので、そちらを参照頂きたいが、自分的には、「マクロではこうですけど、ミクロの立場から見るとこうですよ」と、統計力学のボルツマンエントロピーを援用するのがしっくりくるかなと思う。
本書でも、最終章で、熱力学のエントロピーと、ボルツマンエントロピーが
O
(
V
)
のオーダーで一致する(もしくは熱力学極限で両者は一致する)ことが示されている。
また、例えば、自然な変数の一部を示強変数にすると、何が問題となるの?など、自分で切り口を設定して、必要な個所を読み返してみるのも、面白い。
この本は、そうした読み方にも十分に応えてくれる。
何十年も前に習ったことだから、忘れてしまっていたことも多いが、
「今まで、分かっていなかったな」と気づかされた点をいくつか、書き出しておこう。
どれか一つでも、「あれ、そうなんだ」、と思った人には是非、一読をお勧めします。
・エントロピーの自然な変数は全て、示量変数。自然な変数ではエントロピーは連続的微分可能。
自然な変数の一部を、温度や圧力など、示強変数で置き換えた場合、見かけ上、一次相転移で不連続となる。
・熱のやりとりのおかげで、自然な変数それぞれを独立して変化させることができる。
・なんとなく、熱力学は、準静的過程でしか使えないように思っていたが、途中に非平衡状態を経由しても、最初と最後が平衡状態ならば、エントロピーは状態量であるから、始点と終点にはエントロピーが定義できて、熱力学が使える。
・状態空間の各点は平衡状態を表すので、準静的過程でない場合、途中が非平衡状態となるため、その経路は状態空間からはみ出すことになる。
ただ一つ、本質的なことではないが、理想気体のエントロピーが「~次のようになることが知られている」と天下りで書かれている点だけが残念。統計力学からの導出は見たことがあるが、熱力学の範疇で導出できるのか不明で、考えているところです。粒子数一定なら簡単なんだけどね。
Derivation wanted
:
S
=
N
N
0
S
0
+
RN
ln
[
(
U
U
0
)
c
(
V
V
0
)
(
N
0
N
)
c+1
]
実はこの本は、ルジャンドル変換を調べていている時に、図書館で偶然手にして、すっかり魅了されてしまい、友人にこの本を紹介して「すごいから、今度、買うよ!」と興奮して伝えたところ、逆に改訂版が今年 2021年の3月末に出ると教えてもらい、「じゃあそっちにしよう」と発売を待っているところです。
大幅に加筆され、二分冊となったとのこと。
表紙も大きく変わり、普通の教科書にはちょっとないような、アバンギャルドな仕上がりになっています。筆者の熱意がひしひしと伝わってくるようで、楽しみ。
こちらは初版
エネルギーは、自然な変数に対して
下に凸なことが本の表紙を思い浮かべるだけで
思いだせる親切なデザイン。
こちらが第 2版
熱く語られてそうでしょ?
初版とは絶対に見間違えないかも。
そして表紙には猫がいるらしい。
同じ流儀で、清水先生の書いた統計力学の教科書も読んでみたい。いつか出版してくださることを楽しみにしております。
追記:パズルのようなやり方だが、理想気体の状態方程式と、エネルギーの式からエントロピーを導出できることが分った。ちょっと嬉しいので、
理想気体のエントロピー ── 熱力学からの導出
にまとめました。そして、なぜ「熱力学の基礎」ではそのようなことが書かれていないのかも。
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