その Lagrange 方程式は解を持つか
   ━━ 存在と一意性


与えられた Lagrange 方程式が解を持つかを考える準備として、微分方程式の解について、数学では、どんな定理があったかを証明抜きで復習しておこう。Einstein の規約に従って、同じ添え字が上下に出現した場合は、その添え字について和を取るものとする。
連立常微分方程式の解の存在と一意性
n 組の連立常微分方程式dxi
dt
=fi(xj,t), for i,j=1,...,n
が初期条件xi(t0)=xi0, for i=1,...,nの元で原理的に解けるかどうかを考えよう。差し当たり、右辺 fi(xj,t) は何回でも t で微分可能としよう。直感的には、次のようにして、この方程式群には解が一意的に存在することを示すことができる。 t=t0 での微係数は
dxi
dt
at=t0
=fi(xj,t) at=t0=fi(xj0,t0)
d2xi
dt2
at=t0
=dfi(xj,t)
dt
at=t0
=∂fi
∂t
at=t0+∂fi
∂xj
dxj
dt
at=t0=∂fi
∂t
at=t0+∂fi
∂xj
fjat=t0
と、順次、高次の微係数まで、その値を決めることができる。Taylor 展開xi(t0+Δt)=xi(t0)+dxi
dt
at=t0Δt+1
2!
d2xi
dt2
at=t0(Δt2)+1
3!
d3xi
dt3
at=t0(Δt3)+...
を考えれば、これが解となり、初期条件 xi(t0) 近傍で一意的に定まることが分かる( (xj,t) 空間において解曲線は枝分かれしないし、お互い、交わることはない)。 ここでは、 fi(xj,t) は何回でも t で微分可能としたが、数学的には、一意解を持つための十分条件をもっとを緩めてやることができる。以下に定理として示そう。 Lipschitz (リプシッツ)条件:(xi0,t0) およびその近傍において、fi は連続で、近傍に含まれる任意の 2(xi1,t),(xi2,t) に対し、|fi(xj1,t)-fi(xj2,t)| < Aj|xj1-xj2|を満たす正の数 {Aj} が存在すれば、(xi0,t0) を通る解曲線は、その点の近くでただ一つだけ存在する。 また、 ∂fi
∂xj
, ∂fi
∂t
が全て連続、つまり全ての fit で微分可能で連続ならば、 Lipschitz 条件は満たされる。
このように、dxi
dt
=fi(xj,t)
という形の 1 階の常微分方程式を、正規型の常微分方程式と呼ぶ。 Lagrange 方程式が解を持つかどうかは、この形に変形できるかどうかを考えればよい。
Lagrange 方程式の解の存在と一意性
Lagrange 方程式は qi についての 2 階の常微分方程式となるので、新たに変数を増やすことで、階数を下げることにする。 与えられた Lagrangian LL(qi,qi,t)L(qi,𝜉i,t)として、Lagrange 方程式をa
dqi
dt
=𝜉i
d
dt
(∂L
∂𝜉i
)-∂L
∂qi
=0, for i=1,,f
と書き直すと、これは (qi,𝜉i) の計 2f 個を変数とする、2f 個の( t についての) 1 階連立常微分方程式となる。2 番目の式は、添え字を i から j に変更して、2L
∂𝜉j∂𝜉k
𝜉k+2L
∂𝜉j∂qk
𝜉k+2L
∂𝜉j∂t
-∂L
∂qj
=0
行列( A )ij2L
∂𝜉i∂𝜉j
について、det( A )0として、 A が逆行列 A-1 を持つものとすると、各項の左から ( A-1)ij をかけることにより、
( A-1)ij( A )jk𝜉k=𝛿ik𝜉k=-( A-1)ij(2L
∂𝜉j∂qk
𝜉k+2L
∂𝜉j∂t
-∂L
∂qj
)
𝜉i=-( A-1)ij(2L
∂𝜉j∂qk
𝜉k+2L
∂𝜉j∂t
-∂L
∂qj
)
qi,𝜉i それぞれについて f 個の正規型 1 階常微分方程式を得ることができた。この時、Lagrangian L は正則であるといい、各式の右辺が Lipschitz 条件を満たせば、その Lagrange 方程式は原理的に一意解を持つことになる。 まとめると、 Lagrange 方程式が正規型に変形できる条件は、det( A )0で、さらに正規型で一意解を持つ十分条件は、変形後の各式の右辺が Lipschitz 条件を満たすこと、となる。 すぐ後にも出てくるが、行列( A )ij2L
∂𝜉i∂𝜉j
を、Hesse(ヘッセ)行列という。 では L が正則でない場合はどうなるか?この場合、𝜉i について f 個の方程式が微分方程式として独立ではなくなり、特別な場合を除いて、解が定まらない。 数学的には興味深いが、物理的に興味があるのはやはり、Lagrange 方程式が解を持ち、未来が予言できるようなものなので、この先、特に断りがない限り、 L は正則で、かつ一意解を持つものとして話を進めることにする。
一般化運動量から一般化速度は逆に解けるか
一般化座標 qi に対し、Lagrange 方程式の d
dt
項の中身を一般化運動量 pi と呼ぶ。
pi∂L
∂𝜉i
=∂L
qi
これがなぜ、運動量と呼べるかについては、Hamilton(ハミルトン)形式 ━━ 馴染みのある特性関数 で説明する。ひとたび、L が与えられれば、それがどんな形であろうとも、任意の (qi,qi) に対し、pi は一意に定まる。 では、piqi について逆に解くことは可能だろうか?面白いことに、その条件も、 L が正則なこと、det( A )0となる。以下で示そう。 唐突な感じがするかもしれないが、H∂L
qi
qi-L
なる量 H を考える。H1-form をとると、
dH=d(∂L
qi
)qi+∂L
qi
dqi-(∂L
∂qi
dqi+∂L
qi
dqi+∂L
∂t
dt)
=qid(∂L
qi
)-∂L
∂qi
dqi-∂L
∂t
dt
L(qi,qi,t) の関数だったが、H(qi,∂L
qi
,t)
の関数となることが分かる。
移項して、L=∂L
qi
qi-H(qi,∂L
qi
,t)
qj で偏微分すると、
∂L
qj
=∂L
qj
+2L
qjqi
qi-∂H
∂L
qi
2L
qjqi
=∂L
qj
+2L
qjqi
(qi-∂H
∂L
qi
)
これより、
2L
qjqi
(qi-∂H
∂L
qi
)
=0
Aij(qi-∂H
∂pi
)
=0
A が逆行列を持つ、即ちdet( A )0ならば、左から A-1 をかけることにより、qi=∂H
∂pi
とできる。 H(qi,pi,t) の関数だったので、これは qi について、(qi,pi,t)を用いて、逆に解くことができた、ということを示しており、この時、(qi,qi)(qi,pi)11 に対応することになる。 このことは、変数を (qi,qi) から、(qi,pi) に変更しても系の運動を取り扱うことができる可能性を示唆している。この先、順を追って説明していくが、舞台 (qi,pi) において展開される力学を Hamilton(ハミルトン)形式と言い、そこでは Lagrangian L(qi,qi,t) に代わり、先ほどいきなり登場した、 H(qi,pi,t) が重要な役割を担うこととなる。 実は、この変数変換はシステマティックに行うことができて、 Legendre (ルジャンドル)変換と呼ばれており、Lagrange 形式から Hamilton 形式への橋渡し役を果たす。 流れとしては、このまま Legendre 変換に進みたかったのだが、Lagrange 形式について、まだ一つ、やり残したことがあるので、もう少しだけ 、Lagrange 形式の話を続けることにする。 話題は変って、次は Lagrange 形式における、糸の張力など、拘束条件を満たすために働く力(拘束力)が存在する場合の扱い方について。Lagrange 形式の話はこれが最後。

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